
それぞれの曲に聴いてくれる人の分だけ思い入れがある
――へぇ~。多幸感といえば、このアルバムを包み込むムードはまさにその言葉がピッタリだなぁと。それってたぶん、信頼のおけるピアニストたちへの感謝の気持ちとか、周りに支えられてここまでこれた、って実感が滲み出ているからなんじゃないかと思えてならない。
「そうですね。自分のなかから出てきた曲が、皆さんの演奏が加わることで完成する。それって本当に至福のことで、これほど楽しいものはないですよね」
――その喜びを思いっきり噛みしめているアルバムのタイトルが『体温、鼓動』というのもまたいいですね。とても象徴的なワードというか、音楽を通じて古内さんがいちばん伝えたいものがこれなんじゃないかと。
「いろんなものを取り除いていったら、最終的に体温と鼓動が残るというか、自分の気持ちがいちばん大事なんだ、ってことを歌っている曲なんですが、いまこの世の中に生きている自分が書いた曲であると強く実感しています。〈当たり前なんてもうないの/世界中探したってないの〉ってサビのフレーズは、比喩などではなく心から感じる本当の気持ちですから」
――なるほど。これまでのキャリアを振り返ってみて、大きく意識が変化したことなどあれば教えていただきたい。
「15年前ぐらいからライブの頻度を上げるようにしたんです。それまで苦手としていたピアノの弾き語りにあえてチャレンジしようと決めたんです。つたなかったとしても、自分で弾いて歌うことが何よりも大事だと思えるようなったからなんですけど、そうしたらお客さんともっと近いところで歌えるようになり、いろんな場所で演奏できるようになった。
そのうち、曲を作ることと人前で歌うという、以前はあまり結びついていなかったふたつが交わるようになったというか、境界線がなくなっていった気がする。その変化は大きかった」
――スキルを上達させることよりも、聴き手に音楽を伝えるために必要な大切な何かを発見したんでしょうか。
「目の前のお客さんがときに涙を流したり、曲を聴きながら変化していく様子を目の当たりにするわけです。“誰より好きなのに”のような有名曲じゃないけど、これが聴きたかった!と嬉しそうな表情を浮かべているのを見ると、いろんな曲が人それぞれの想い出と結びついていて、聴いてくれる人の分だけの思い入れがあるんだな、って気づかされる。すごく小さなワンフレーズでもその人の気持ちにフィットすれば、その曲はすごく大事な存在になって一生忘れなかったりする。その様子が間近で見られるんですよ。という経験がおのずと曲作りに落とし込まれているような気がするんですけどね」

濃厚な時間のなかで手作りした作品
――ひと節聴いただけで、一発でわかってしまう独特な空気をお持ちの古内さんですけど、ご自身ではどういったシンガーであると評価していますか?
「身近な人からは、雰囲気歌手だなんて言われてますけど(笑)、それはともかく、私はシンガーソングライターなので、つねに自分の声を想定しながら曲を書いているんです。自分の声の特性やクセを把握したうえで曲作りしているから、いつもオーダーメイド。出来上がった曲は自分の声がいちばん合うものになっている」
――古内さんの歌詞やメロディーをいちばん惹き立てるのが古内さんの歌声であるというのは誰もが知っている事実でしょうね。
「個性的な声だとデビューの頃から言われていたんですけど、そうなのか、って最近ようやく思えるようになりました。まぁ、イイ感じに枯れてきているんじゃないかと。でもライブで昔の曲をやろうと思ってCDを聴き直したりすると、なんだか自分とは思えないですね。その時々のフェイズで声が違ったりするから。ただ本質的な部分というか特徴は変わらないと思う。
こないだ何十年も会っていなかった友達と偶然再会したんですね。そのとき私は電話しながら歩いてたんです。そしたら〈アレ、東子ちゃん?〉って声が向こうから聞こえてきて。すれ違う瞬間にすぐ私だって気づいたみたいですね」
――それはすごい! あとピアニストとしてのご自身の評価についてもお訊きしたい。今回“この夜を越えたら”ではご自身がピアノを弾いていらっしゃるし。
「まぁ、雰囲気ピアニストだなって(笑)。でも弾き語りにおいて上手い下手は関係なくて、その人にしか出せない良さというか、その人にしか伝えられないものがあると思う。私もそう意識しながらやっているんですけど、ただスタジオでレコーディングする場合は別問題だと思ってきたのでこれまでやらずにきたんです」
――でも今回はやはり入れるべきじゃないかと?
「いや、入れたほうがいいんじゃない?ってぐらいの気持ちでしたよ(笑)。でもやらせてもらって良かったといまはすごく思っています。とても心に残る時間だったし、自分のピアノの音を客観的に聴くことができたのが大きな収穫。なにせ録音したものが、曲を作ったときとまんま変わらないんですよね。いつもなら曲を作ったあとは、アレンジですごく華やかにしてもらったり、魅力的に膨らませてもらったうえで世に出ていくんですけど、この曲に関しては自分の頭のなかから出たものをそのまんま残せた感覚があって、それは良い経験になったなと。あと良い記念にもなりましたし」
――そういう意味も含めて、本作は古内さんにとっても心に残る作品になりましたか?
「なりましたね。なんていうか、周りの方たちとひとつひとつ積み重ねながら作り上げた手作りの作品という実感がすごくある。いろんな瞬間瞬間が鮮烈に残っていて、濃厚な時間だったなって」
――アルバム制作に関わった全員の熱量が濃厚な味わいを生み出しているのはたしか。
「皆さんの想いが結集しているからじゃないかなと思います」
RELEASE INFORMATION
■CD
リリース日:2022年2月21日
品番:MHCL-2939
価格:3,300円(税込)

■アナログ
リリース日:2022年4月27日(水)
品番:MHJL-212
価格:4,070円(税込)
完全生産限定盤
TRACKLIST
CD
1. 虜
2. 夕暮れ
3. 体温、鼓動
4. 時はやさしい
5. 動く歩道
6. だから今夜も夢を見る
7. この夜を越えたら
8. はやくいそいで(2022 Piano Trio Version)
アナログ盤
Side A
1. 虜
2. 夕暮れ
3. 体温、鼓動
4. 時はやさしい
Side B
1. 動く歩道
2. だから今夜も夢を見る
3. この夜を越えたら
4. はやくいそいで(2022 Piano Trio Version)
LIVE INFORMATION
Toko Furuuchi Live 2022
2022年3月21日(月・祝)愛知・名古屋 BLcafe
https://www.tokofuruuchi.com/posts/26793475?categoryIds=1838140
TOKO FURUUCHI 30th ANNIVERSARY 体温、鼓動
2022年6月4日(土)大阪・梅田 ビルボードライブ大阪
2022年6月12日(日)神奈川・横浜 ビルボードライブ横浜
2022年6月30日(木)東京・六本木 ビルボードライブ東京
http://www.billboard-live.com/
TOKO FURUUCHI 30th ANNIVERSARY LIVE TOUR
2022年4月30日(土)広島 Live Juke
2022年5月1日(日)愛媛・松山 MONK
2022年5月13日(金)熊本 CIB
2022年5月14日(土)福岡・天神 ROOMS
2022年5月29日(日)北海道・札幌 PENNY LANE24
2022年7月2日(土)新潟県民会館小ホール
https://www.tokofuruuchi.com/posts/32544168?categoryIds=1838140