日産スタジアムからの無観客配信ライブ「Fujii Kaze “Free” Live at NISSAN stadium」の開催や「NHK紅白歌合戦」への出場など、2021年の音楽シーンを席巻したシンガーソングライターの藤井 風。彼が、待望のセカンドアルバム『LOVE ALL SERVE ALL』をついにリリースした。オリコンチャートの週間アルバムランキングで初の1位を獲得した本作は、すでに2022年最大の話題作のひとつと言っていいほどに注目を集めている。今回は、そんな本作について、気鋭の書き手s.h.i.が音楽的な分析を行った。 *Mikiki編集部

藤井 風 『LOVE ALL SERVE ALL』 HEHN/ユニバーサル(2022)

 

〈天衣無縫のキメラ音楽〉

藤井 風のセカンドアルバム『LOVE ALL SERVE ALL』が素晴らしい。音楽的な広がりと全体を貫く明確なイメージの両立が絶妙で、曲順構成もとても良い。何度でも気軽にリピートしたくなり、それでいて飽きのこない奥行きもある。加えて興味深いのが、前作に比べるとこの人の特異で特別な在り方がより前面に出てきていること。本稿では、その特異な在り方について、〈天衣無縫のキメラ音楽〉という観点から簡単に掘り下げてみたい。

 

色合いの異なる歌メロが違和感なく繋がった名曲“青春病”

本作のハイライトになっている名曲““青春病””は、よく聴くとなかなか変な曲である。全体を覆う雰囲気は一貫しているが、流麗な歌メロは箇所によってかなり色合いが異なる。自曲“帰ろう”(2020年)の変奏的でもあるAメロ(0:43~)に対し、Bメロ(1:19〜)は米津玄師系譜のボカロポップスに通じる歌い回し、Cメロ(1:36~)は昨今のUSポップミュージック的、Dメロ=サビ(1:55〜)はJ-R&Bとシティポップ系譜を接続した感じで、そこからブリッジ的に繋がるE〜Fメロ(3:20~)には70年代の日本の歌謡曲に通じるテイストがある。

『LOVE ALL SERVE ALL』収録曲“青春病”。なおアルバムに収録されている““青春病””はアルバム用に藤井 風がエディットし直したバージョン

それら全てが一筆書き的に違和感なく繋がって聴こえるのは、藤井 風の圧倒的な歌唱・作曲スキルによるところも大きいだろうが、そういう方向性を試み実現しようとする意志と、それを可能にする音楽的バックグラウンドの豊かさがあればこそなのだと思う。

 

R&Bクラシックのコード進行に大胆な捻りを加えた“ガーデン”

その点、アルバムのちょうど真ん中に置かれた“ガーデン”は特に興味深い。この曲は理屈抜きに快適に浸れる極上のスロウだが、トラックや歌唱フロウをよく聴くと、ジニュワインが2001年に発表したR&Bクラシック“Differences”に通じる部分が少なからずあることがわかる。同曲はポップ・スモークの没後2020年に発表された“What You Know Bout Love”(TikTokのダンスチャレンジを通して大ヒット)でもサンプリングされており、時代の流れからしても必然的に繋がるものなわけだが、“ガーデン”のコード進行にはそれらには無い大幅な捻りが加えられていて、結果として全く別の印象を生んでいる。

『LOVE ALL SERVE ALL』収録曲“ガーデン”

1番のワンループ的展開がこのまま続くのだろうなと思わせておきながら、2番〈だから冬よおいで〉でのさりげなく変則的な転調で微かな予感を匂わせ、3番の〈なるようになるまで〉からは歌メロは転調しないもののコード感が長調から短調に暗転、そこで差した陰を引き継ぎつつ両サイドの中間に行き着く。このような宙吊り感と進行感を両立するコード遣いは、どちらかと言えばOfficial髭男dismなどの高度なJ-Popに通じるものだろう。

 

〈アルバム曲〉として絶妙に再構築された“へでもねーよ(LASA edit)”

こうしたことは“へでもねーよ(LASA edit)”にも言える。「珍しく怒りのような感情から生まれた曲。その衝動をそのまま出したようなシングルバージョンから月日は流れ、おれの心境も変わった。このアルバムに馴染ませるためには、もう少し余裕を持って、より豊かな色彩でこの曲を再構築する必要があると思った」※という通り、両バージョンの仕上がりは大幅に異なる。

『LOVE ALL SERVE ALL』収録曲“へでもねーよ(LASA edit)”

シングル版では、“アランフェス協奏曲”風の冒頭フレーズを活かすラテン音楽的コード進行が、歌謡曲的な解決感、破壊的なカタルシスをもたらしていたが、“LASA edit”では、フュージョン〜シティポップ的なコードをそれらの定型とは大きく異なる並びで用い、爽やかながら明確な解決を避け続ける浮遊感を生んでいる。この改変は、単発で区切りをつけるのではなく流れの一部として漂い続ける〈アルバム曲〉として絶妙な仕上がりだし、冒頭の尺八から想起される日本の伝統音楽の不安定な和声感覚を現代的に再構築したものとしても、稀にみる素晴らしい出来である。

ファーストアルバム『HELP EVER HURT NEVER』(2020年)での2000年代J-R&B的な方向性もあって〈R&Bの人〉的イメージが定着しつつあったようにも思われる藤井 風だが、音楽的バックグラウンドやそれを駆使する発想はそこに留まらないし、本作ではこうした在り方がだいぶ前面に出てきている。

 

誰でもアクセスできる結節点としての〈天衣無縫の音楽〉

以上を踏まえて何より得難く思われるのが、こうしたキメラ状の構造が生み出す優れたアクセシビリティーである。冒頭で触れた““青春病””の歌メロ構成は、ある意味では様々な世代にとっての〈青春〉を繋ぎ目が見えないくらい滑らかに並べ接続したものだとも言える。ストリーミング/サブスク普及後だからこそ培われたのだろう広範な素養、過去と現在を分け隔てなく楽しみ受け入れる肌感覚が、それら全てを違和感なくまとめる天衣無縫の音楽を生む。そしてそれは、誰でもどこからでもアクセスできるものとなり、それらを繋げる結節点にもなる。

こうした在り方は、昨年の「NHK紅白歌合戦」における活躍や、本作の圧倒的なチャートアクションも鑑みれば、藤井 風というアーティストが間もなく担おうとしている(既に担っているようにもみえる)〈お茶の間〉的な立ち位置にも通じるし、『LOVE ALL SERVE ALL』(すべてを愛し奉仕する)というアルバムタイトルはそれを実によく体現している。

ファーストアルバムの音楽性はどちらかと言えば保守的なものだったが、今回のセカンドアルバムでは、そこから出発したからこそ生み出せる新鮮さ、広く根付いたスタイルの内部から境界を押し広げる力が示されている。今後の展開もいっそう楽しみになる、本当に素晴らしい作品である。

 


RELEASE INFORMATION

藤井 風 『LOVE ALL SERVE ALL』 HEHN/ユニバーサル(2022)

リリース日:2022年3月23日

■初回盤 ※2CD
品番:UMCK-7162/3
価格:4,400円(税込)
初回特典:特製フォトブック(全52P)/『LOVE ALL COVER ALL (piano arranged covers)』

■通常盤
​品番:UMCK-1711
価格:3,300円(税込)

■配信
価格:2,200円(税込)
配信リンク:https://fujii-kaze.lnk.to/LASA​
iTunesプリオーダー特典:“旅路”“きらり”“燃えよ”MV付属

TRACKLIST
Disc 1(初回・通常盤共通)
1. きらり
2. まつり
3. へでもねーよ(LASA edit)
4. やば。
5. 燃えよ
6. ガーデン
7. damn
8. ロンリーラプソディ
9. それでは、
10. “青春病”
11. 旅路

Disc 2『LOVE ALL COVER ALL』(初回盤特典)
1. Sunny / Bobby Hebb
2. No Tears Left To Cry / Ariana Grande
3. Hot Stuff / Donna Summer
4. Sorry / Justin Bieber
5. Good As Hell / Lizzo
6. Just the Two of Us / Grover Washington Jr.
7. Weak / SWV
8. Overprotected / Britney Spears
9. Teenage Dream / Katy Perry
10. Eh, Eh / Lady Gaga
11. Circles / Post Malone