©MOTLYS, FENRIS FILM, KINESCOPE FILM, NEUE IMPULS FILM 2021

誰もが知っている名曲を生み出したノルウェーの国民的バンドのドキュメンタリー
いまだに衰えない人気の陰に隠された愛憎入り混じった友情の物語が明らかに

 ノルウェーから初めて世界に飛び出したバンド、a-ha。彼らの最大のヒット曲“テイク・オン・ミー”は80年代を代表するポップ・ソングで、アニメーションと実写を融合させたミュージック・ビデオを覚えている人も多いはず。「007/リビング・デイライツ」の主題歌を手掛けるなど80年代の活躍ぶりに比べて、それ以降の彼らの活動は日本ではあまり知られていないため一発屋のように思われているかもしれない。しかし、彼らはノルウェーを代表する国民的なバンドであり、今も世界中でスタジアム級のコンサートを開いている。そんな彼らのバンド結成から40年にわたる軌跡を追いかけたドキュメンタリーが「a-ha THE MOVIE」だ

 a-haは1982年に、モートン・ハルケット(ヴォーカル)、ポール・ワークター=サヴォイ(ギター)、マグネ・フル ホルメン(キーボード/ギター)の3人によって結成された。映画は3人それぞれへのインタヴューから始まるが、「新作は作らないのですか?」という質問に彼らの表情が険しくなる。そして、「スタジオに集まってもケンカするだけだから」と呟くマグネ。3人に一体何が起こったのか。そこから映画は3人のインタヴューを中心に、バンドのキャリアを振り返っていく。

 80年代はじめ頃、ブリッジズというバンドで活動していたポールとマグネは、バンド解散後に成功を夢見てイギリスに渡った。しかし、芽が出ないまま帰国した二人は、美声の持ち主、モートンを誘って新バンド、a-haを結成する。その際、ギタリストは二人いらない、ということになりマグネはキーボードに変更。不本意ではあったが、マグネは年上のポールを尊敬していて、二人はお互いに刺激を与えながら曲作りに熱中した。二人がひとつの椅子に座ってピアノを弾く当時の写真が映画で紹介されるが、当時の彼らの関係が伝わってきて微笑ましい。そして、運命の曲、“テイク・オン・ミー”が出来上がると3人は渡英してデモを録音。曲が認められて念願のメジャー・デビューを飾ることになる。

 しかし、“テイク・オン・ミー”はすぐにヒットしたわけではなかった。本国でスマッシュヒットを記録したものの、曲の持つ可能性を信じた3人はあの手この手で作り直す、そして、完璧なヴァージョンで再度リリースして、世界的なヒットを記録するまでの過程が興味深い。それだけ力を注いだ“テイク・オン・ミー”のおかげで、3人は夢見ていたポップスターになったものの、彼らに与えられたイメージは〈北欧のアイドル〉。モートンがバンドの顔となり、ティーン向けに〈馬鹿げたポーズの写真〉を撮り続けることになる。そこから脱却しようとU2的なイメージを打ち出すが失敗。忙しい日々を送るなかで次第にメンバー間に溝が生まれ始める。

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 なかでも、かつて同じ椅子に座ってピアノを弾いたポールとマグネの確執は痛々しい。“テイク・オン・ミー”の印象的なキーボードのフレーズはマグネが思いついたものだが、ポールはそれを作曲として認めなかった。他の曲に関しても作曲の定義を巡ってマグスとポールの意見が分かれるなか、ポールは曲作りやレコーディングをコントロールするようになり、それがメンバーとの間に軋轢を生む。モートンは自分がヴィジュアル担当でいることに疲れ果て、マグネはバンドの空気に耐えられず脱退を考える。そして、94年のワールドツアー以降、3人はそれぞれソロ活動に専念。一旦は再活動するものの2010年に解散。しかし、2015年には再結成して新作を発表する。

 くっついたり、離れたりを繰り返す3人。映画では3人が一緒にインタヴューを受ける映像はなく、彼らの発言からは愛憎入り混じった複雑な友情が伝わってくるが、そのありのままの姿をとることを許したところに、本作の監督、トマス・ロブサームに対するバンドの信頼が伝わってくる。ロブサームはインタヴューでa-haが今も活動を続ける理由は「音楽への愛、金、さらなる成功」と語っているが、まさにその3つについての物語とも言えるだろう。バンドの貴重な録音風景やプライベートな映像がたっぷり見られる本作は、ファンなら間違いなく楽しめるが、“テイク・オン・ミー”しか知らない者は彼らの普遍的なポップ・センスを再発見できるはず。そして、映画を観終わったあと、あの軽快な“テイク・オン・ミー”がまるでバラードのように味わい深く聞こえるだろう。

 

*2022年5月6日追記
現在配布中の「intoxicate vol.157」P.43の映画「a-ha THE MOVIE」についての記事およびその転載である当記事に、誤りがございました。「《テイク・オン・ミー》の印象的なキーボードのフレーズはマグネが思いついたものだが、ポールはそれを“作曲”として認めず、曲を仕上げた自分の名前しかクレジットしなかった。」と記載しておりますが、これは誤りで、正しくは、“テイク・オン・ミー”のクレジットには現在3名の名前がクレジットされています。関係者のみなさま、読者のみなさまには、大変ご迷惑をおかけいたしましたこと、深くお詫び申し上げます。今後このようなことがないよう、強く気を引き締めてまいります。 何卒よろしくお願いいたします。 *intoxicate編集部

 


FILM INFORMATION
映画「a-ha THE MOVIE」
監督:トマス・ロブサーム/アスラーグ・ホルム
出演:モートン・ハルケット/ポール・ワークター=サヴォイ/マグネ・フルホルメン
原題:A-HA: THE MOVIE
日本語字幕:大嶋えいじ|字幕監修:勝山かほる|映倫G
配給:クロックワークス
(2021年|ノルウェー・ドイツ|112分|16:9|ノルウェー語・英語・ドイツ語|5.1ch)
©MOTLYS, FENRIS FILM, KINESCOPE FILM, NEUE IMPULS FILM 2021
https://klockworx-v.com/a-ha/
2022年5月20日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー