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水谷孝は確かにそこに〈いた〉

初めはスクリーン内のVJであったはずの映像も、フロア全体にすっかりはみ出していた。終盤、意識が少し飛びそうになった瞬間、このハコがWWW Xからも渋谷からも切り離されてどこか宙を飛んでいるような錯覚に襲われた。最後は、空間を覆い尽くしていた音が舞台に置かれていた水谷孝所有のSGとマーシャル、テレキャスターとグヤトーンによる生フィードバックと響きあい、ゆっくりと収斂してゆく。スクリーンには水谷のポートレートが映し出されていた。舞台には誰もいなかったはずなのに、水谷孝は確かにそこに〈いた〉。

やがて、MJQのヴィブラフォンが聴こえてきた。ゆっくりと拍手が起こり、長く続いた。とてつもなく長時間だった気もするし、一瞬だった気もする。当時を知る人たちには、これはどういう体験だったんだろう。客数制限があったとはいえ、さまざまな世代や海外のリスナーも詰めかけたこの日のフロアの雰囲気も、かつてとは違っただろう。だが、少なくともこの異常で異質な体験は、73年の裸のラリーズを体験する最良の時間だったと信じられるものがあった。

その源泉が水谷孝の音楽だったのはもちろんだが、久保田麻琴ミックスからも強く感じたことがある。そこにあったのは、轟音伝説が独り歩きした狂気や暴力による壁ではなく、むしろ音で全感覚を包み込むような感覚。さらに言えば、73年の裸のラリーズに確実にあった物語性や優しさみたいなものだった。

「あー」と声を出し、唾を飲み込み、自分の耳の無事を確かめた。一晩寝たらツーンとする音は身体的には消えるはず。だが、この精神的な残響はしばらく消えずに残るだろう。

 


RELEASE INFORMATION

VARIOUS ARTISTS『OZ DAYS LIVE ’72-’73 Kichijoji: 50th Anniversary Collection』
レーベル:Temporal Drift
ディストリビューション:TUFF VINYL
リリース日:2022年夏頃
品番:DRFT02
フォーマット:3枚組CD

TRACKLIST
CD 1
1. Les Rallizes Dénudés – OZ Days
2. Les Rallizes Dénudés – 僕らの喜びに影がさした
3. Les Rallizes Dénudés – 造花の原野
4. Les Rallizes Dénudés – 白い目覚め
5. Les Rallizes Dénudés – The Last One_1970
6. Les Rallizes Dénudés – 記憶は遠い (ver. 2)
7. Les Rallizes Dénudés – 眩暈 otherwise My Conviction

CD 2
1. Les Rallizes Dénudés – The Last One_1970 (ver. 2)
2. Les Rallizes Dénudés – 僕らの喜びに影がさした (ver. 2)
3. Les Rallizes Dénudés – 造花の原野 (ver. 2)
4. 南正人 – 海が見えるあの丘へ
5. 南正人 – 愛の絆
6. 南正人 – 夜をくぐり抜けるまで
7. 南正人 – I Shall Be Released

CD 3
1. 都おち – Shake Your Money Maker
2. 都おち – Kansas City
3. 都おち – Twist & Shout
4. Acid Seven – 寿の朝
5. Acid Seven – もう帰らない
6. Acid Seven – 風よ吹きまくれ涙は枯れる光の中に
7. Acid Seven – 帰らなくちゃ
8. Acid Seven – ピエロがやってきた
9. Acid Seven – 横浜へおいでよ
10. Acid Seven – あの頃、僕は若かった

 

裸のラリーズ 『The OZ Tapes』 Temporal Drift(2022)

リリース日:2022年4月27日
品番:DRFT03
フォーマット:2LP
価格:6,050円(税込)

TRACKLIST
1. OZ Days
2. A Shadow On Our Joy / 僕らの喜びに影がさした
3. Wilderness Of False Flowers / 造花の原野
4. White Awakening / 白い目覚め
5. The Last One_1970
6. Memory Is Far Away / 記憶は遠い
7. Vertigo otherwise My Conviction / 眩暈
8. The Last One_1970 (ver. 2)

 

裸のラリーズ『’67-’69 Studio Et Live』『Mizutani / Les Rallizes Denudes』『’77 Live』

91年にリリースされたオリジナルアルバム3タイトルも、CD/LPにて今秋リイシュー予定。発売日、価格などの詳細は追って、裸のラリーズのオフィシャルサイトにて発表。