米国で話題沸騰中の映画「罪人たち」。オリジナル脚本としては異例のヒットを続け、観客・批評家の両方から高い評価を受けている。そんな本作の日本公開が早くも決定、2025年6月20日(金)に封切りされる。
「罪人たち」は1932年の米ミシシッピ・デルタを舞台にしており、ロバート・ジョンソンら同時代のブルースミュージシャンからインスパイアされた作品だ。さらにルドウィグ・ゴランソンのサウンドトラックにはボビー・ラッシュ、ジェイムス・ブレイク、ヘイリー・スタインフェルド(重要な登場人物として出演もしている)、リアノン・ギデンズ、バディ・ガイ、ブリタニー・ハワードといった著名アーティストが参加、音楽ファンも必見の映画なのだ。
そこで今回は音楽評論家/音楽プロデューサーの藤田正に、本作の映画的魅力とブルースとの関係を綴ってもらった。 *Mikiki編集部

アメリカ社会の本質を語る、謎解きのような映画
愛と友情を語りつつ、バンパイアがご丁寧にも「私たちも、おウチに入っていいですか?」と訪ねて来る。その、心底まで揺さぶる怖い映画術がたまらない。全米で大ヒット中の「罪人たち」。表向きはホラーでスプラッターな映画でありながら、〈アメリカではなぜこんなに吸血鬼が増殖するんだ?〉と考えさせる、謎解きのような魅力を兼ね備えた作品だ。
「罪人たち」は、39歳という若さでありながら、「ブラックパンサー」シリーズほかの成功により、巨匠への道を突っ走るライアン・クーグラー監督の最新作である。監督自身が長年温めてきたと言うだけに、伝説や奇譚にあふれた米深南部・ミシシッピ州のブルースに独自の光を当て、往年のロックやブルースに詳しい人であってすら驚くような数々の逸話を脚本に盛り込んでいる。
物語として設定されたのは、1932年、禁酒法時代の土曜日から翌日曜日にかけての、ほぼ一日だ。怪しいギャング風のダテ男二人が、酒とダンスで一儲けしようと故郷の町へ帰って来たところから、歌と殺戮の物語が始まる。二人は双子。そんな彼らを一人二役で見事に演じ切ったのが、「ブラックパンサー」シリーズや「クリード」シリーズで名を馳せたマイケル・B・ジョーダンである。そして、双子が急ごしらえで造った安酒場(ジュークジョイント)に地域の人々が集まり出す頃には、悪徳の華と卑下されたブルース、あるいは黒人系教会音楽や白人のカントリーミュージックが、どれほどアメリカの〈聖と俗〉、あるいは〈狂気〉をも象徴してきたかを、ぼくらは肌感覚で少しずつ理解し始めるのだった……恐怖の、みんなでバンパイア!のシーンはその直後からね(汗)。
「罪人たち」には小憎らしい場面が無数にあって、例えばたくさんの銃撃シーンにしても、かつての〈西部劇〉に似せてはいるようでいて、実は当時の黒人たちが一般的には銃を持つことを禁じられた裏返しなのだ。クーグラー監督は、史実を見据えながら、いわば映像という幻想の中で本質的なアメリカ社会を語ってみせた。絶滅させられたはずのネイティブインディアンが、魔物を探して村々へ討伐隊としてやって来る、とかも。19世紀後半に清国から移民してきた中国人と、アフリカ系の人たちがジュークジョイントで手を取り一緒にダンスするなんて、これまでのメジャー系アメリカ映画で果たしてあっただろうか。彼らはそれぞれの祖先と子孫とを従えながら、マーヴィン・ゲイの名作『I Want You』のジャケット絵画とそっくりに踊っている。