©Sébastien Coindre

デヴィッド・ラングと演出家 笈田ヨシが初共演
――芥川龍之介の「或旧友へ送る手記」「点鬼簿」などがベースとなった新作オペラを日本初演

 2023年2月、デヴィッド・ラングの「note to a friend」が、NYと東京で初演される。ジャパン・ソサエティー(ニューヨーク)と東京文化会館との共同委嘱で、作曲家みずからがリブレットを作成、演出は笈田ヨシが担当する。大規模なものではなく、小ホールでおこなわれるモノオペラで、室内楽的な、と呼んでもよいかもしれない。今回、Zoomでの二者を迎えた記者会見で筆者からラング氏への問い掛けと、のちにやはりZoomでおこなった笈田ヨシ氏へのインタヴューをまとめて、ご報告と相成った。

 まず、ラング氏への問い。リブレットは芥川龍之介の3つの文章をもとにしているそうだが、作曲のみならず、リブレットを作成するその大変さと面白さ、よろこび、といったものについて。

 「よい質問ですね。いままでに詩や脚本をたくさん書いてきました。いろいろなパターンがあり、ほかの方がたが書いたものを用いて書くことも、まったくゼロからじぶんで書くこともある。個々の作品によって違ってきました。音楽がことばをより輝かせることも、ことばによって音楽がより理解できることもある、互いに、双方向的にはたらいてくる。いくつも経験してきました。しかし、今回は、死をテーマとしています。誰にとってもとても大切なテーマだし、ときに、ひとによっては重く、辛いものであるかもしれない。わたしじしん、死を書くことは、みずからを、追いかけるような、そんな過程をたどることとなりました。じぶんに問い掛けるだけでなく、深く、じぶんが何者なのか、じぶんが何を感じ、何を知りたいか、どこへ向かっていくのだろうか、ひじょうにパーソナルなテーマを、より、深く掘りさげ、みつめなおすことを求められました。そういう意味では厳しく難しい、じぶんは何者なのかという過程をたどったテクストづくりだったのです」

 「自殺をはかった男性をめぐるオペラを以前に書いたことがあるんです。『ルーザー(The Looser)』(2016)で、トーマス・ベルンハルトのテクストをそのまま用いました。ほかのひとのはなしとして書いたからです。しかし今回のオペラは、わたしじしんを投影したものになりました。『ルーザー』では他者のこと、対して、今回は、外からではなく、じぶんのなかを、じぶんの投影したものをみつめなおす。ですからじぶんのことばですべて書きたい――そう考えたわけです」

 先の質問につながるが、「デス・スピークス」や「マッチ売りの少女」も死とかかわっている。その意味では、ラング氏にとって死は持続的に考えてこられたテーマなのか、と。

 「そう、大好きなテーマです(笑)。わたしはハッピーな人間です。音楽は音楽そのものがミステリー=神秘だとおもっています。音楽は感じることはできるけれど、それがなにものなのか完全に知ることはできません。だから、わかりきらないものを表現するのに、音楽はひじょうにいいとおもっているんですね。ことばだけでは言いきれない、ことばでは理解しきれないものを、音楽をとおして理解する、感じるんじゃないか。わたしたちがどこへ行くのかという、こたえのない、難しい問いが、わたしの好きなテーマにかかわると言ったらいいでしょうか」