20年以上に渡ってロック・シーンに君臨し続けるバンドが10作目に到達。ヘヴィーとメロディアスの両面で魅力に溢れたニュー・アルバムは聴き手を癒し、そして鼓舞する!

 2019年2月に日本武道館を含む東名阪の来日ツアーを行ったカナダ出身の4人組、ニッケルバック。“How You Remind Me”を含めてヒット曲を数多く持つバンドだけに、それらのライヴでも若い人から年配のリスナーまで幅広い客層を大合唱の嵐に巻き込んでいた。彼らの楽曲はハード・ロック/メタル・ファンの心を射抜くヘヴィーな音色を鳴らしつつ、ラジオ・フレンドリーなメロディーも大きな魅力になっている。何より楽曲の中心軸を担うチャド・クルーガー(ヴォーカル/ギター)の歌心は、ロック好き以外にも訴えるポピュラリティーを装備している。全世界で5,000万枚以上のセールスを記録し、2000年代のアメリカではビートルズに続いて、2番目に売れた外国人アーティストであるという実績は伊達ではない。

NICKELBACK 『Get Rollin’』 BMG/ワーナー(2022)

 そんな彼らから、5年5か月ぶりとなる10作目のアルバム『Get Rollin’』が到着した。拡散と濃縮のサイクルにより、己の音楽的なキャパシティーを広げてきた彼ら。前作『Feed The Machine』についてチャドは「それまでの作品に比べると確実によりヘヴィーになった。いつもはいろんな方向に拡げて、さまざまなことを試してきたけれど、『Feed The Machine』ではもっとアグレッシヴなサウンドをめざしたんだ」と解説していた。その発言通り、前作は〈骨太〉〈肉厚〉〈タフ〉という言葉が浮かぶストロングなパワーに漲っていた。特に前回の来日公演でも1曲目を飾った“Feed The Machine”は、その象徴的な例だろう。ボトムに響く重厚なビートを用い、ソリッドに攻め立てた曲調にロック・ファンは乱舞した。作品全体を通しても、初期作を彷彿させる尖鋭的なアプローチを掲げていた前作は、バンドのエネルギーを〈濃縮〉させる方向で莫大な威力を発揮した一枚と言っていい。

 それに対して、今作はどうだろう。まずアートワークからして歴代の作品たちと、かなり雰囲気が異なる。カリフォルニア産パンク・バンドのジャケットのようにポップな絵柄。コロナ禍や戦争など、世の中はダークな空気に支配され、鬱屈した感情を抱えている人も多い。人間同士が対立し、分断されていく世界に対し、カウンターを浴びせるような明るさと温かさを帯びたジャケットが印象的だ。それは作品の中身にもリンクしている。

 もちろん、従来のヘヴィーな楽曲も用意されているので安心してほしい。冒頭を飾る“San Quentin”は重心の低い演奏をベースに、ニッケルバック節を貫いた力強いメロディーとサウンドで圧倒するナンバーだ。また、“Vegas Bomb”ではスタジアム/アリーナ・クラスの会場を揺らすロック・アンセム感を提示。フィジカルを揺さぶる豪快なダイナミズムは、いまからライヴの絵が容易にイメージできる。

 その一方で、アコギを用いたバラード“Those Days”は完全に青春カムバック・ソングと言える仕上がり。歌詞に〈Guns N’ Roses〉、コーラス・パートに〈Ace Of Spades by Motörhead〉と固有名詞を入れ、すでに公開済みのMVのなかでは同バンドのフラッグのほかエアロスミス、メタリカ、モトリー・クルーなどのポスターやTシャツまでが仕込まれている。〈あの頃の衝動や感動を忘れず、人生を駆け抜けろ!〉と聴き手に呼びかけているようだ。

 さらに波の音を配した“Tidal Wave”、アコギとストリングスを導入した“Steel Still Rusts”や“Just One More”など、アルバム後半は壮大なスケールの楽曲が並ぶ。大地に根を張り、メロディーの良さを存分にアピールした曲調に自然と身も心も解放されてしまう。巧みな押し引きにより、ヘヴィーとメロディアスの両面を見事にパッケージした今作は、王者ニッケルバックの魅力を過不足なく伝えてくれる好盤である。

ニッケルバックの近作。
左から、2011年作『Here And Now』(Roadrunner)、2014年作『No Fixed Address』(Republic)、2017年作『Feed The Machine』(BMG)

チャド・クルーガーが近年参加した作品を一部紹介。
左から、アヴリル・ラヴィーンの2013年作『Avril Lavigne』(Epic)デヴィン・タウンゼンドの2019年作『Empath』(Inside Out)