フュージョンを再発見するためのタワーレコード限定コンピレーション『REDISCOVERING FUSION! – WARNER MUSIC COLLECTION』がリリースされた。フュージョンライターの第一人者・工藤由美がワーナー音源の名曲の選曲と解説を務め、10年経っても聴き継がれるトラックを集約した本作。DISC 1は全盛期の象徴的な楽曲が、DISC 2は90年代以降のスムースジャズを交えた個性的な楽曲が網羅されており、2017~2018年に発売されて好評を博した『EVERYBODY FUSION』シリーズの強力なアップデート版、究極のアンソロジーと言えるだろう。そんな本作について、音楽評論家の近藤正義が解説した。*Mikiki編集部

VARIOUS ARTISTS 『REDISCOVERING FUSION! – WARNER MUSIC COLLECTION(タワーレコード限定)』 ワーナー(2022)

 

エネルギーが満ちた時代に音楽はジャンルを越える

フュージョンというムーブメントの源流は、直接的には70年前後から始まったジャズを発端とするクロスオーバーという現象だろう。しかし、もっと遡るならヨーロッパのクラシックが各地の民族音楽を取り入れたり、他の国の作曲家の影響を受けるなど、そこからもう融合という現象は始まっている。ポップスもラテン、イージーリスニング、フォーク、ロック、ジャズなど様々なジャンルからの刺激で変化を続けてきた。つまり、音楽とはそういうものなのだ。いずれの時代も、アーティストによる創作意欲やリスナーが欲する音楽性の拡大という欲求のエネルギーが一つのジャンルに収まりきらなくなり、ごく自然に結果的にジャンルの垣根を飛び越えてしまった、という産物だ。

ただし、こういった現象が起こるのは、音楽家に、リスナーに、そして社会にエネルギーが満ち溢れていることが必要。クロスオーバーからフュージョンへと繋がる70年代とは、まさにそういう時代だったのである。

 

商業的拡大、情報化時代の始まり、楽器プレイヤーの増加

そして70年代のクロスオーバー~フュージョンという時代が特別だったのは、音楽産業が成熟し、商業的に拡大していく時代だったことがまず一つ。次に情報化時代の始まりでもあり、プレイヤーにとってもリスナーにとっても情報伝達のスピードが速くなったこと、そしてリスナーにも楽器をプレイする人口が増えて趣味における音楽のプライオリティーが高くなったこと、などが挙げられる。

それによって、プロデューサー/アレンジャー、各楽器のプレイヤーに人気者がたくさん現れた。プロデューサー/アレンジャーならデイヴ・グルーシンやトミー・リピューマ。ギターならラリー・カールトン、ロベン・フォード、アール・クルー、ハイラム・ブロック。ギターだけでなく歌でも人気を博したジョージ・ベンソン。ベースの革命児ジャコ・パストリアス。キーボードのジョー・サンプル、デオダート、ジョージ・ウィンストン。サックスのデヴィッド・サンボーンやグローヴァー・ワシントンJr.。奇跡のボーカル、アル・ジャロウ。バンドならスタッフ、ラーセン=フェイトン・バンド、イエロージャケッツなど。

 

“Just The Two Of Us”に“Breezin’”、大ヒットナンバーからマニアックな曲まで

特にこのコンピレーションでとりあげているワーナー・ミュージックの音源には当時のスタープレイヤーが揃っており、ヒット曲も多い。“Just The Two Of Us(クリスタルの恋人たち)”(グローヴァー・ワシントンJr.)、“Room 335”(ラリー・カールトン)、“Breezin’”(ジョージ・ベンソン)などはあまりの大ヒットぶりに、音楽に興味の薄い人の記憶にも刷り込まれている、まさに時代を代表する曲たち。“My Sweetness”(スタッフ)、“Tutu”(マイルス・デイヴィス)、“Spain (I Can Recall)”(アル・ジャロウ)などもFMで頻繁にオンエアーされていたので、当時音楽ファンだった人なら必ずやご存知のはず。

『REDISCOVERING FUSION! – WARNER MUSIC COLLECTION』収録曲グローヴァー・ワシントンJr.“Just The Two Of Us”

『REDISCOVERING FUSION! – WARNER MUSIC COLLECTION』収録曲ジョージ・ベンソン“Breezin’”

『REDISCOVERING FUSION! – WARNER MUSIC COLLECTION』収録曲アル・ジャロウ“Spain (I Can Recall)”

自らも楽器を演奏する方なら“Three Views Of A Secret”(ジャコ・パストリアス)、“Chicago Song”(デヴィッド・サンボーン)、“Magic Sam”(ロベン・フォード)などでプレイヤーとしての血も騒ぐはず。

『REDISCOVERING FUSION! – WARNER MUSIC COLLECTION』収録曲デヴィッド・サンボーン“Chicago Song”

また、細かいところまで配慮した、気の利いた選曲と曲順も嬉しい。DISC 1の冒頭から往年の有名3曲“クリスタルの恋人たち”“Room 335”“This One’s For You”でフュージョン魂を鷲掴みにされた後は、意表をつく曲だったり、有名曲でもシングルバージョンだったり、エディットバージョンだったりと飽きることがない。

DISC 2でかなりマニアなところを突いてくるのも聴かせどころだろう。次世代スムースジャズからの選曲として国内初CD化の2曲、2003年の“Come On Up”(ブライアン・カルバートソン)、“Green Tomatoes”(リック・ブラウン)も収録されている。このような選曲/曲順の妙も感じながら聴いていただければ、このコンピレーションの面白さは倍増するはず。

『REDISCOVERING FUSION! – WARNER MUSIC COLLECTION』収録曲ブライアン・カルバートソン“Come On Up”

『REDISCOVERING FUSION! – WARNER MUSIC COLLECTION』収録曲リック・ブラウン“Green Tomatoes”