20枚がリリースされたタワーレコード企画〈BLUE NOTE SA-CD HYBRID SELECTION〉。2024年9月の第1弾に始まり、第2弾第3弾、そして2025年3月の第4弾で全作が出揃った。ジャズの名門ブルーノートの定番・名盤の数々がSACD Hybrid盤でよみがえり、〈本物のジャズ〉の音が高音質で堪能できるプロジェクトだ。

昨年、当企画についてエンジニア/音楽家オノセイゲンのインタビューをお届けしたが、その続編としてコラムを特別寄稿してもらった。〈SACDの復権〉を掲げるオノにとっての〈いい音〉とは?

なおオノがミックス&マスタリングを担当した日向敏文のSACD Hybrid盤『The Dark Night Rhapsodies』のリリースを記念したイベントが、来週6月26日(木)に開催される。予約時にこの記事を読んだことを伝えてもらうとチケット代が500円引きになるので、ぜひチェックを! 詳細は記事末尾を確認してほしい。 *Mikiki編集部


 

若者よ、街へ出てブルーノート名盤をSACDで聴こう!

2000年以降に生まれた20代の若者たちにとっては、映画も音楽もサブスクで触れるのが当たり前で、テレビも観ない、雑誌も読まないとなると、それらは誰が書いたかもわからない、ただの情報でしかありません。分析という言葉も知らないので、知った気になっています。それは、食べログを見て実際には食べていない料理と同じです。身の周りにはスマホがあり、ノイキャンヘッドホンでサブスクの音楽を聴くのが現代です。まして今10代の子供たちは、生まれてからCDプレーヤーなんか見たこともないわけです。

〈いい音〉を〈いいオーディオ〉で体験するという経験は、彼らにはまだありません。知らないからしょうがないのですが、この何年かDSDや〈SACDの復権〉イベントをやってきて気がついたこと、そして確信したことは、〈いい音楽〉を〈いい音〉で聴く機会があれば、彼らも感動するということです。

では、〈いい音楽〉とは? 美味しい料理と同じで、個人の趣味嗜好、経験値により好みは分かれますが、タワーレコード限定盤のブルーノート・レーベル85周年の20タイトルは、間違いなく〈いい音楽〉です!

友人のオーディオ好きの音楽評論家、小野島大氏は、〈やっぱりオーディオの基本は「音がいいレコードだから聞く」じゃなく、「好きな音楽をより良い音で聞く」ですよね。そう思わないオーディオファンも多いだろうけど〉と投稿していました。ボクもまさにその通りだと思います。

大人たちから見えていないことは、実は若者たちの中にはクラシックやジャズが好きな人もいるということです。ただ2000年以降に生まれた他の音楽とクラシックやジャズは、まったく同列で聴かれています。それらは通勤電車でもノイキャンヘッドホンさえあれば、サブスク音源をストリーミングの圧縮された音ですが、いくらでも聴けるのです。

音楽データもオーディオアンプもすべてがデジタルで、ブルーノートのレコードが録音された50年前には不可能であったことが手軽になった時代が、2025年です。なので最新のマスタリングだから、という文句だけでは売りになりにくい。さらに録音技術もオーディオ技術もある意味、SACDが登場した2000年過ぎが頂点で、そこからは音が良くないことに対して言い訳はできないはず。そんな時代だからこそ街へ出てブルーノート名盤を〈いい音〉で体験できるチャンスを提供し、できるなら若者たちがまだ体験したことのない〈いい音〉のスピーカーで聴ける場を見つけていきたいと思っています。

国内最大級のオーディオとホームシアターの祭典〈OTOTEN2025〉では、来場者に若者の割合が急激に増えたと聞きます。オーディオマニアというと50代以上の富裕層というイメージが古い考えなのかもしれません。