〈これまで機会がなかったけれど、ジャズを聴いてみたい〉という声はよくききます。そしてその中の多くが、できるならより良い音で楽しみたい、楽曲が生まれた時代的背景や演奏家についての情報も同時に知りたいというご意見でした。それを踏まえて、究極のカタログ・シリーズ〈Everything Jazz〉がスタート!

ヴァーヴ、ブルーノート、リヴァーサイド、プレスティッジなど、歴史上に燦然と輝く名門レーベルから、海外のみならず日本でも長く愛されてきた名盤を厳選してお届けします。

 何か新しい世界を眼の前にし、興味を抱いたとき人はどうするだろう。その世界をよく知る誰かに知恵を受けたり、そういう手がかりがなかったら入門書のようなものを捜して読むかもしれない。こうして得られる情報を一括りにすると、これらは〈専門家〉たちの見解で、確かに入門者には便利で十分参考にすべき資料になるだろう。けれど、〈専門家〉は万全ではない。経験を積み重ね、そこで得た世界が確固になると、それは独りよがりの押し付けと隣り合わせにあることに気づかなければならない。音楽の世界は、そのファンの数だけたくさんの世界がある。

 とはいえ、入門の指標となるものがあるのは便利だ。レコード会社は、そうした人々のために、音楽ファンの拡張のために、シリーズ企画というものを生み出してきた。その企画の方向は様々だが、大筋は大まかにふたつ。長く市場から消えてしまった作品の復活、あるいは市場に出たことのない作品の復刻。前者は、すでに所有しているファンにはあまり意味がないが、音質等の向上をうたって再購入を促す狙い。後者は、希少盤ということで、マニアの購入意欲を刺激するが、入門者にはあまり縁がない。ただ、かつてジャズには〈幻の名盤〉ブームというのがあって、ファンのほぼ全員がコレクターになってしまったという異常な時代もあったので、その余韻は今も残っているかもしれない。

 こうした企画シリーズの流れの間には、当然グレーゾーンが存在し、今回は限定販売だから、あるいは廉価販売だから見逃さないことみたいに宣伝がされる。これらは、どちらかというとマニア向けで、入門者向けとは言い難い。ところが、今回のユニバーサル・レコードが企画したシリーズは、昔からあるこうしたシリーズ企画とは全く違う。これには驚かされた。戦車のような怒涛の企画だ。

 この新企画は、クラシックとジャズの大きな世界を対象にしている。根底にあるのは、これらの音楽ファンは、モノとして身近に音楽を所有したいということがあるだろう。これは古い、新しいということを乗り越えた音楽との精神的なつながりにも関係するかもしれない。なぜなら、そうしたことを過去の販売実績が語っているからだ。そして、こうした積み重ねられたデータは、さらにこの世界の中身にまで踏み込んでいく。

 これらは、〈Everything Jazz〉というシリーズ名で、これから50作品づつ4期に渡って、ジャズの〈名盤〉が合計200枚出される。そして、このアルバムの選定は至って簡単で、過去の販売枚数の実績データが利用されたようだ。むろん、販売枚数の順番がそのままこの〈名盤〉のリストになったわけではない。ミュージシャンの人気の度合いや、楽器等のジャンル分け、その他いろいろ考慮され、このジャズの花園のような世界が設計されたのだろう。ただ、この文章の冒頭に、この世界の〈専門家〉について長く書いてしまったが、ここには、その曖昧な〈専門家〉の思い入れのようなものがない。売り上げたその長い実績が、これら〈名盤〉の確たる証左なっている。そして、もうひとつ重要なのは。ここには、いわゆるモダン・ジャズの世界の真ん中に位置するレーベルがほとんど網羅されていることだ。1期ではヴァーヴ、2期はインパルス!、エマーシー、デッカその他、3期はプレスティッジ、リバーサイドその他、4期はブルーノートと誰も文句につけようがないモダン・ジャズの大海のような世界がある。

 むろん、ここに欠ける重要なものがないわけではない。あえてあげておくが、マイルス・デイビスのCBSがない。モダン・ジャズ・カルテットやチャールス・ミンガスらのアトランティック・レーベルがない。けれど、それはそれでコレクションを考えればいい。ここにはそれ以外のモダン・ジャズの歴史のほぼ全てが揃っている。

 さらにもう少し不満のようなことを言えば、よく売れたものが名盤ではないと、しがない〈専門家〉の一人の私のようなものが、あらためて言いたくなることがある。けれど、一方で、よく売れたものはみんなが愛したジャズであり、そのジャズの楽しさは変わらないし、手にしたことを後悔することはないだろうと確信している。楽しくなければジャズじゃない。みんなが楽しんできたのがジャズという音楽なのだ。けれど、どこか素性の分からない、見落としがちな道端の花の美しさを見つけることも、音楽を聴く重要な楽しさであることを忘れてはならない。それが大発見にもつながったり、人生を変えたりすることもある。それらを付け足し続けることでコレクションは継続していくだろうが、それは最後まで未完成に終わるだろう。

 


RELEASE INFORMATION
♪歴史上に燦然と輝く名門レーベルから名盤200タイトルを厳選、全4回に分けてリリース

第1弾:2025年5月28日(水)発売 Verve編
第2弾:2025年6月25日(水)発売 Universal編(Impulse!、Decca、EmArcy etc.)
第3弾:2025年9月24日(水)発売 Concord編(Riverside、Prestige、Contemporary etc.)
第4弾:2025年10月22日(水)発売 Blue Note編
各50作品

Everything Jazz公式HP:https://www.everythingjazz.jp/everythingjazz-catalogue/