〈典型的な日本の家庭〉で育った苦労とアドバンテージ

――多様な地域にルーツを持つ者として生きる苦悩についてアルバムやプレスリリースで触れていますが、具体的にあなたが感じている特定の集団やエリアでマイノリティーとして生きることの難しさ、そしてその問題に対して感じる不満を教えてください。

「混血であることは、とても深いトピックだね。なぜなら、私は本当の白人でも日本人でもないから。時々自分のことを無理に分類したがるような人もいる。私が育った地域は白人が多くて、人種差別も激しかったし。

それに加え、私は〈典型的な日本の家庭〉で育ったから特に大変だった。トロントは韓国人や中国人に比べて日本の文化を守っているコミュニティーが少なくて、だからこそ母は家の中では日本文化を守る必要があった。そうしなければ自分の文化を失っていたかもしれないから。つまり自分たちで居場所を作るしかなかった。

私や兄弟は武道を習い、日本食を食べ、規律正しい生活を送ってきたけど、トロントで年齢を重ねていくうちにハムサンドを食べる人たちやスナックを食べる人たちと一緒に学校へ通うことになった。クラスメイトたちは私の文化に対して〈何それ(笑)?〉みたいな態度だったけど、それも含めて面白い体験だった。

でも、間違いなくそのことが自分の意志を見つけることに拍車をかけたと思うし、ベース奏者としていろんな人のために演奏することにも役に立った。例えば、どうすればいわゆる〈Kawaii Girl〉や〈人形〉のようなドレスアップを表現できるのかは日本のカルチャーを知っていないとできないことだから。

でも、アメリカやカナダ、イギリスで活動している日本人アーティストが、日本の文化が何を意味するのかを人々に伝えて、より多くの人々に知ってもらうためにはまだまだ壁があるような気がする。

だからもっと勉強して、もっと自分に根付くようにベストを尽くしている。別のインタビューでも言ったんだけど、こっちに引っ越して自分自身を確立して、もっとつながりを持てるようにしたい。言語面でも、実際に日本語を使ってリアルな会話ができるくらいの自信を持ちたいんだよね」

――プレスリリースに、〈このアルバム全体は、自身のメンタルヘルスへの賛歌である〉とありましたが、あなたと同じようにメンタルヘルスの問題を抱える人々に対して、このアルバムを聴いてどのようなことを感じて欲しいですか。

「このアルバムは間違いなく自分自身にとって必要だから作り出した世界のようなものなんだ。

だけど、このアルバムを完成させた時、同じような抑圧や何かに対する怒りや憤りを感じている人たち、望まない仕事をしている人たち、人間関係に悩んでいる人たち、あるいは満足できない場所にいて閉塞感を感じている人たちに対しても、この世界を開いてあげられると思ったんだ。プロジェクト全体を通して、常に人々が逃げ込めるような世界――1時間たっぷり聴いて、〈自分だけじゃない〉と感じられるような、そんな世界を作りたいと思っていた」

『19 MASTERS』収録曲“IF THERE’S NO SEAT IN THE SKY (WILL YOU FORGIVE ME???)”

 

創作はオープンな状態で、クレイジーでないと

――このアルバムには、エレクトロニックやアンビエント、ジャズ、それからフォーク、ポップスやシューゲイザーのようなギターの轟音まで、様々な音楽的要素が含まれていると感じました。サウンド面に関しても〈パッケージングされたくない〉という思いからより自由に、様々な要素を含んだカテゴライズができないようなアルバムにしたのでしょうか? それとも何か一つの理想像があったのでしょうか?

「そうだね。とても無心になれたし、それが一種の目標でもある。常にこの無心に戻れるように心がけているし、出てくるアイデアは完全に正直なものであって、ああだこうだと考えることはない。それがクリエイティブの理想的な状態だと思う。

何か思い浮かんだとしてもすぐにアウトプットしなければ、その魔法は失われてしまう。だから、とにかく無心になろうと心がけていた」

『19 MASTERS』収録曲“SAVING GRACE”

――今後リリースされる作品でも、コアコンセプトやテーマといったものを持たず、このスタイルでいくということでしょうか?

「必ずしもそうというわけではないよ。今の自分に関して言えば、以前よりもエネルギッシュでドラムが強調された音楽を求めるフェーズに移行していると感じている。聴いた人が〈これはパンクだ!〉って思うような。今回の作品は意識の流れのコラージュみたいなイメージだったけど、新しい作品はそんな感じでドラムを完全にプロデュースしたものになると思う。

私は制作に関しては完全にオープンな状態でありたいと思っている。そうでないと窮屈になって、また同じような作品を作ってしまうことになるから。自分自身を閉じ込めてはいけないし、リアルな話、クレイジーでなければならないと思うんだ(笑)」