©Thurstan Redding

この音楽は誰のためのものなのか――過去の自分と向き合って未来へ心を躍らせる彼女の音楽は、すべての人を受け入れるポップソングとして鳴り響く。2022年の最注目作がいよいよ登場した!

真摯なスピーチ

 8月の〈サマソニ〉やTV出演などで、一気に知名度が高まったリナ・サワヤマ。日本人の両親を持つこのシンガー・ソングライターは、幼い頃からロンドンに在住。日本でもダイナミックな歌唱と存在感のあるステージングで圧倒してくれた。と同時にステージ上での彼女の発言がネットで話題を集めた。

 〈私はバイセクシャルであることを誇りに思っています。しかし日本はG7の国の中で唯一、同性婚や差別禁止法がない国です。それは凄く恥ずかしいことだと思います。私や、私の選んだ家族、クィア・ファミリーに平等な権利があるべきだと思う人は、私たちと闘ってください〉。

 上から目線でもなければ、押し付けがましくもなく、LGBTQ当事者としての真摯な声だった。もちろんフェス会場にはさまざまなセクシュアリティ、思想の人々が集まっていたはずだが、大きな拍手で迎えられた。みんなに知ってほしい、一般の人にも広く伝えたいという彼女の願いは、その音楽にも共通している。それこそ根幹を成す原動力となっている。

 新潟生まれの彼女が父親の仕事の関係でイギリスに移住したのは5歳の時。母親と共にロンドンで育ったリナは、10代初期にブリトニー・スピアーズやジャスティン・ティンバーレイク、ビヨンセ率いるデスティニーズ・チャイルドなどのY2Kポップ・ミュージックの洗礼を受けている。高校に入るとみずから歌ったカヴァー曲をネットにアップしたり、ヒップホップ・グループに参加したり。ケンブリッジ大学在籍中には、ファッション・モデルとしてランウェイを歩いたこともある。本格的な音楽活動をスタートさせたのは、大学卒業後の2013年、“Sleeping In Waking”でシングル・デビューを飾っている。2017年には、自主制作で完成させた初のEP『Rina』をリリース。米ピッチフォークや英ガーディガンなどのメディアから高評価を受け、その後も同性愛をテーマにした“Cherry”、ニュー・メタル調の“STFU!”、ファッション愛を歌い上げた“Comme Des Garçons (Like The Boys)”といった、斬新な切り口の楽曲を次々と公表していく。趣向を凝らしたヴィデオも毎回話題を呼んだ。そして2020年4月に満を持してファースト・フル・アルバム『Sawayama』をリリース。この作品をきっかけに、彼女を取り巻く世界は大きく変化する。とは言うものの、コロナ禍に突入してしまったため、その成功はすぐさま実感できたわけではなく、後からじわじわとやってきた。