2020年最大の話題作のひとつであるThe 1975の『Notes On A Conditional Form』。グレタ・トゥーンベリの真摯な訴えに始まり、バンド・メンバーへの愛を捧げて終わるこのアルバムは、その多彩な音楽性と長大さから、さまざまな評価がなされている。

今回はそんな『Notes On A Conditional Form』について、新進の批評家で批評 × 旅行誌「LOCUST」の編集長である伏見瞬に執筆を依頼した。伏見が〈アンビエント〉と〈エモ〉、そして〈車〉というキーワードから導き出す本作の一貫したコンセプトとは? *Mikiki編集部

THE 1975 『Notes On A Conditional Form』 Dirty Hit/Polydor/ユニバーサル(2020)

 

『Notes On A Conditional Form』はカオティックで散漫なアルバムか?

2020年の5月22日にリリースされた一つの作品について、多くのメディアやリスナーが〈カオティック〉とか〈断片的〉とか〈散漫〉とかいった言葉を口にした。肯定する論者も否定する論者もいるが、〈カオティックな〉という形容詞を積極的に受け入れる点については一致していた1

〈仮定法に対する注釈〉と題されたこの作品が、1時間20分という、一枚の〈ポップ・アルバム〉としては長尺に類するランニング・タイムを有しており、収録された22曲が曲ごとに異なるスタイル(インダストリアル、ガラージ、R&B、シューゲイザー、フォークなど)を持っている事実を鑑みれば、たしかに、〈散漫〉という意見に与する流れの形成も必然だと思える。

しかしながら筆者は、そうした流れに対して、逆行する考えを有する者である。イングランドはマンチェスター出身の4人組、The 1975の4枚目のフル・アルバム『Notes On A Conditional Form』は、緊密なコンセプトに導かれた統一感をなによりの特質とする作品であり、それどころか、彼らはデビュー当初からのすべての作品に緩みなき一貫性を持たせている。その一貫したコンセプトは〈エモ〉と〈アンビエント〉という二つの単語で成り立っているのだが、The 1975の特異性は、二つの全く異なる音楽ジャンルを指す単語を、〈車〉という環境の中で一つにつなげたことに存する。

1 以下の記事に『Notes On A Conditional Form』に対する各メディアの反応がまとめられている
https://www.udiscovermusic.jp/columns/the-1975-notes-on-a-conditional-form-review-from-world