Inside Your Mind
すりガラス越しに眺めた現代社会はどんな色をしているのだろう――無防備なほど美しい歌世界で幅広いリスナーを虜にしたマンチェスターの4人組が、秀でた折衷感覚を駆使してインターネット時代の空虚な感情を曲にしたためる。〈僕〉と〈君〉はここにいる……のか?

THE 1975 A Brief Inquiry Into Online Relationships Dirty Hit/Interscope/ユニバーサル(2018)

 

ミレニアル世代の新たな道標

 2010年代のポップ・ロックを象徴するバンドとして、エクレクティックなセンスで軽やかに時代を乗りこなしてきた1975。前作『I Like It When You Sleep, For You Are So Beautiful Yet So Unaware Of It』で全英/全米チャート1位を獲得し、名実共にトップ・バンドへ登り詰めた彼らの待望の3作目となるのが『A Brief Inquiry Into Online Relationships』だ。オートチューンを巧みに効かせたR&Bやトロピカル・ハウス、エレクトロニカの抽象を纏った甘美なソウルやジャズの援用など、トレンドを適宜ピックアップしていく嗅覚と、それを間口の広いポップソングに集約していくマナーはさらに洗練されている。しかし同時に、今作は彼らが自身と自身を生んだ時代へのアイロニカルな批評を深めた転機の一枚でもある。

 インターネットによって本質をスポイルされたコミュニケーションの虚しさや、SNSでの虚像に侵食されて漂流する自我を浮き彫りにした歌詞も、享楽のポップスの狭間でふと立ち昇ってくる孤独の素描のようなピアノとフォーク・ギターも、時代の当事者であり、勝者である1975だからこそ対峙すべき境地だったとも言えよう。彼らは今回レディオヘッドの影響を受けたと語っているが、『OK Computer』で予知された世界を日常として久しいミレニアル世代にとって、このアルバムは新たな道標となるかもしれない。 *粉川しの