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(左から)吉田美月喜、常盤貴子

優しさと孤独感の同居――映画を象徴する歌声

「物語が終わって劇場を出た後も、心の中でずっと響いている。温かい歌声で優しく励ましてくれる。そんな楽曲ってなかなかないと思うんです」。主人公の武藤千夏を演じた吉田美月喜は、エンディングを飾る“それでも明日は”への深い共感をこう語ってくれた。ドラマ「今際の国のアリス」(Netflix/2020年)や「ドラゴン桜」(TBS/2021年)で注目され、2023年も多くの出演作が待機する期待の女優。彼女にとって「あつい胸さわぎ」に出演したことは、まさに「全力で物語を生きた」特別な経験だったという。

「この作品を撮っていた夏、私は劇中の千夏と同じ18歳だったんです。それも含めて自分と重なる部分が本当に多かった。彼女が抱えたコンプレックスも、新たな世界や恋愛にワクワクするのも10代としてすごく分かるし。思いがけず乳がんを宣告されて頭が真っ白になり、何も信じられなくなっちゃうところも、毎日手探りでお芝居している私自身みたいに思えました。ただ、病気になって何もかも嫌になり、恋も青春も未来も奪われた気がしても、誰も千夏のことを見捨てていない。それに気付き受け入れていくプロセスが実は本作の魅力だと、私は感じていまして。最後に流れるHanaさんの声は、その象徴なんですよね。だから聴くたびに胸がいっぱいになってしまう(笑)」(吉田)。

物語と主題歌は本来、とてもデリケートな緊張を孕む。作品の内容やトーンを無視した(いわゆる)タイアップ曲が付くことで、映画の余韻が台無しになるケースもなくはない。「あつい胸さわぎ」ではその2つが最良の形で響き合い、1つの世界を形作っている。歌詞と誠実に向き合い、物語に寄り添おうとするHana Hopeの姿勢がそれを可能にした。まつむら監督は最初に彼女の声を耳にしたとき、こう直感したそうだ。「ラストにこの声があれば、大きな支えになる。主人公の千夏にとっても、観てくれるお客さんにとっても」と。

「一切の嘘がない声だなと、強く感じたのを覚えています。真っ直ぐで、凜としていて、媚びみたいな要素がまるでない。しかも、声質そのものは穏やかで優しいのに、その奥にはどうしようもない孤独や絶望も聴きとれるような気がして……。だからこそリアルに感じました。難しいテーマなので、作り手として無責任なことは決して言えません。でも僕は、暗く落ち込んだトーンで物語を閉じるつもりは毛頭なかった。その微妙なバランスを、Hanaさんの歌声が体現してくださった。本当に幸せな出会いだったなと思います」(まつむら監督)。

 

スクリーンで眺めた場所を歩くのは不思議な気分――“それでも明日は”MV撮影秘話

映画完成後の2022年冬。まつむら監督は再びロケ地の和歌山県の雑賀崎に赴き、“それでも明日は”のMVを撮った。劇中、主人公の千夏が全力で駆けていた海辺の街。Hana Hopeにとっては初めての訪問だ。「スクリーンで眺めていた場所を歩くのは不思議な気分でした」と彼女は笑う。赤い傘を差し、防波堤の上をゆっくり歩くHanaの姿を静謐なカメラワークが捉える。物語の主人公と歌い手は、ここでもしっかりと寄り添っている。

「映画と同じロケ地で、同じ監督さんにMVを撮っていただけるなんて、本当に貴重な経験ですよね。自分の曲が、ぐるっと回って物語のもとに還ったような気がして、すごく嬉しかった。この感動を忘れずに、ステージでも毎回しっかりと感情を込め、丁寧に歌っていきたいと思います」(Hana Hope)。

「撮影ではHanaさんに、白い服と黒い服を両方着てもらいました。人生にはいろんな側面がある。自分が望んだこと、そうでないこと、思いがけない運命。それらを見つめ、ちゃんと向き合い折り合いをつけていくことが僕は大事だと思っているので。希望だけじゃない、孤独や痛みもきちんと感じさせてくれる彼女の声を、視覚的にも表したいと思ったんです」(まつむら監督)。

希望はいつも、真っ直ぐな視線の先にある。太陽が昇る前の空気が澄み切った時間。薄曇りの海辺で歌うHana Hopeの表情は、そのことを言葉以上に伝えているようだ。

 


MOVIE INFORMATION
あつい胸さわぎ

監督:まつむらしんご
原作:戯曲『あつい胸さわぎ』横山拓也(iaku)
脚本:髙橋泉
出演:吉田美月喜/常盤貴子
前田敦子/奥平大兼/三浦誠己/佐藤緋美/石原理衣
配給:イオンエンターテイメント/SDP
©2023 映画『あつい胸さわぎ』製作委員会
2023年1月27日(金)新宿武蔵野館、イオンシネマほか全国ロードショー
https://あつい胸さわぎ.jp/

 

RELEASE INFORMATION

Hana Hope 『それでも明日は』 U/M/A/A/HINTS music(2022)

リリース日:2022年12月14日
配信リンク:https://lnk.to/SoredemoAshitaha

TRACKLIST
1. それでも明日は
 (作詞:柴田聡子 作・編曲:UTA)

■ジャケットアートワーク
Photographer: Shiori Ota
Art Director: Junko Hoshizawa
Stylist: Tatsuya Shimada
Hair & Make up: chiho
Outfit: tiit tokyo

 

“それでも明日は” MV
2022年12⽉14⽇18:00よりYouTube Hana Hope Channelにて配信開始

■スタッフ
監督:まつむらしんご
プロデューサー :谷内田彰久/村田修一
制作:加藤弘晃
撮影:石原ひなた
撮影助手:佐藤嵩真
ヘアメイク:中居詩野
スタイリスト:島田辰哉
車両:赤井正太郎
ロケ地:和歌山県・雑賀崎・和歌浦芸術区
℗2022 Sony Music Labels Inc. / HINTS music Inc.
©2022 U/M/A/A INC. & HINTS music
©2023 映画『あつい胸さわぎ』製作委員会

 


PROFILE: Hana Hope
2006年生まれ。東京都出身。幼い頃から歌うことや曲作りが大好きで、ソロデビュー以前から何組ものアーティストからボーカリストとしての依頼を受け、高橋幸宏、佐橋佳幸、細野晴臣、ROTH BART BARON、TOWA TEI、鈴木慶一、am8など、錚々たるアーティストと共演。2020年には老舗レコーディングスタジオ、音響ハウスの映画「Melody-Go-Round」に出演。同名のエンディングテーマソングで同作を飾る。2021年には細田守監督の映画「竜とそばかすの姫」で声優デビュー。2022年2月にシングル『Sentiment / Your Song』でデビュー、国内外における数多くのプレイリストやチャートに入り、話題のニューカマーとなる。5月には〈FUJI & SUN ’22〉に初参加、これは本人にとっての初めての野外フェス参加にもなった。そして2022年11月3日、待望のセカンドシングル“きみはもうひとりじゃない”、そして初の自身の作詞・作曲による“16 - sixteen”をリリース、同日には初のソロライブを開催。また、これまでに日立、ソニー・コンピューター・サイエンス研究所、花王、JR東日本などのコマーシャルソングの歌唱やナレーションも行っている。16歳とは思えない表現力を持つHana Hopeは、まさにデジタルネイティブなZ世代。ジャンルを超えた幅広い音楽性を表現する、新世代のフィーメールシンガーである。

PROFILE: まつむらしんご
第31回ぴあフィルムフェスティバルに入選後、早稲田大学大学院に進学。「ロマンス・ロード」が2013年SKIPシティ国際Dシネマ映画祭長編コンペティション部門SKIPシティアワードを受賞、第18回釡山国際映画祭アジアの窓部門に正式出品される。2017年の「恋とさよならとハワイ」は大阪アジアン映画祭JAPAN CUTS Award、上海国際映画祭アジア新人賞部門〈脚本賞・撮影賞〉を受賞。台北金馬映画祭NETPAC賞にノミネートされたほか、台湾では3都市で劇場公開された。

PROFILE: 吉田美月喜
2003年3月10日生まれ、東京都出身。近年の出演作品に、Netflixシリーズ「今際の国のアリス」(2020年)、「ドラゴン桜」(2021年)、日本テレビ系「ZIP!」内ドラマ「サヨウナラのその前に」(2022年)、映画「たぶん」(2020年/監督:Yuki Saito)、『メイヘムガールズ』(2022年/監督:藤田真一)、鴻上尚史作・演出舞台「エゴ・サーチ」(2022年)など。主演映画「カムイのうた」(監督:菅原浩志)、「パラダイス/半島」(監督:稲葉雄介)が2023年に公開予定。