©Ben Pier

ジャズ・シーンで賞賛を浴びる気鋭のサックス奏者がアンタイと契約して新たな傑作を完成! 挑戦そのものを表現にしてきた鬼才はソウルフルな音像で何を伝えようとしている?

 「サウンドを探求し、常に過去の作品とは違って聴こえるようにすること、以前の探求を繰り返さないよう自分自身に挑戦すること――アルバムを作るたびに、それを目標としているんだ」。

 そう話すJBLことジェイムズ・ブランドン・ルイスは、即興を重んじるマーク・リーボーらのアヴァンな流れやフリー・ジャズの伝統性とヒップホップ世代らしい機能美を兼ね備えた作風で知られる気鋭のサックス奏者/作曲家だ。ハワード大学やカリフォルニア芸術大学で学び、現代音楽や民族音楽の領域にも学術的に踏み込んできた彼は、2010年の『Moments』を皮切りに多様な編成でリーダー作をコンスタントに発表し、外部のプロジェクトにも積極的に参加。なかでもレッド・リリー・クインテットと録った2021年の『Jesup Wagon』は、ゴスペルやブルース、ブラスバンドなど多彩な要素の渦巻く傑作として批評家に歓迎され、レジェンドのソニー・ロリンズからも称えられる飛躍の一作となった。以降もクインテット作品『Code Of Being』(2021年)やクリフスの『Cliffs』(2022年)などを発表してきた彼だが、「このプロジェクトがついに世に出たことを嬉しく思うよ!」と興奮する今回のニュー・アルバム『Eye Of I』はアンタイからの初めてのリリースとなる。

 「このアルバムはアンタイにぴったりだと感じたし、私の音楽に対するジャンルレスなアプローチと、それがアルバムでどのように構成されているかを彼らは理解してくれると思った。アンタイはトム・ウェイツからメイヴィス・ステイプルズまでの優れた作品を出している非常に折衷的なレーベルだ。このレーベルの音楽的多様性に貢献できることを光栄に思うよ」。

JAMES BRANDON LEWIS 『Eye Of I』 Anti-(2023)

 そうでなくても『Eye Of I』の視点は折衷的だ。トリオでのレコーディング作品は『No Filter』(2017年)以来だが、今回はドラマーのマックス・ジャッフェに加え、レッド・リリー・クインテットでも活動するチェロ奏者のクリストファー・ホフマンがトリオに名を連ねている。この型にはまらない編成も彼の言う〈挑戦〉なのかもしれない。

 「一般的なトリオのコンセプトは、エネルギーを追い求めること、手段を選ばないこと、そして自分の人生が明日終わるかのように演奏することだと思う。しばらく他の音楽形式を探求して、作曲の面で自分自身を追い込んでいたから、前のトリオでレコーディングしてから時間が経った。一昨年の夏に他の人のバンドでツアーを行ったことに触発されて、トリオを復活させる時が来たと感じたんだ。チェロ奏者の起用は作曲するうえでの好奇心から生じたもので、クリスとは前に他のセットでも仕事していたからね」。

 2021年9月という録音時期もあって「特にロックダウン中に私がよくしていた視点についての対話を反映したものになっている」という本作は、「自分の中にある人生の謎の答え」を探らんとする“Within You Are Answers”を筆頭に、己の思考や内面に着想を求めたコンセプチュアルな仕上がり。引き続きゴスペルの要素が漂い、いつも以上にメロディーを重視した構成も親しみやすい。ダニー・ハサウェイ“Someday We’ll All Be Free”のカヴァーも明快なフックになるだろう。

 「ずっとダニー・ハサウェイが大好きで、このアルバムを彼の曲をカヴァーする機会にしたいと思っていたんだ。彼はハワード大学に通っていて、私がそこの学生だった時に彼のレガシーについて学んだ。ソウル・ミュージックは子どもの頃から常に身の回りにあったし、ゴスペルは私の生きた経験の一部だから、少なくともそのフィーリングは常に存在しているよ」。

 アルバムの締め括りは、フガジのリズム隊とギタリストのアンソニー・ピログから成るメスセティックスとのコラボ“Fear Not”。JBLは自身の『An UnRuly Manifesto』(2019年)やウィリアム・フッカーの『Pillars... At The Portal』(2018年)でもピログと手合わせしていたが、ロック・バンド的な抒情に溢れた“Fear Not”は恐れることなく表現を追求する姿勢の明確な表れとも言えるだろう。

 多方面に名の通ったアンタイ発の作品ということで、いつもとは異なる聴き手にも届く可能性が広がっているのは確かだし、つまり、それに相応しい振り幅の広さと親しみやすさがこの『Eye Of I』には備わっているのだ。なお、アルバム・タイトルの由来について尋ねると、「眼は身体のランプで、眼がいい感じなら身体も光で満たされるんだ」とのこと。気合い十分なアルバムに創造性を行き渡らせた彼の眼は、活き活きと輝いているに違いない。

ジェイムズ・ブランドン・ルイスの作品を一部紹介。
左から、レッド・リリー・クインテットとの2021年作『Jesup Wagon』(Tao Forms)、クァルテットでの2021年作『Code Of Being』(Intakt)、クリフスの2022年作『Cliffs』(Off)

左から、ダニー・ハサウェイの73年作『Extension Of A Man』(Atco)、メスセティックスの2019年作『Anthropocosmic Nest』(Dischord)