9年ぶりの新作『Quest For Fire』がついにリリースされたかと思ったら、その翌日、2023年2月18日に突如リリースされた、さらなるニューアルバム『Don’t Get Too Close』。ソリッドなダンスフロア仕様だった『Quest For Fire』に比べて、こちらはかなりメロディー志向でポップかつ華やかだ。

〈近づくな〉というタイトルは、もはや終わった感のあるコロナ禍のムードを思い起こさせる。しかし、カバーアートを見ると、いわゆる〈ヤマアラシのジレンマ〉を表しているようだ。

終盤に置かれたタイトルトラック“Don’t Get Too Close”は、デフ・ジャム所属の若手シンガーソングライター、ビビ・ブレリーをフィーチャーしている。スティールパンとエレクトリックギターをバックに、たっぷりとリバーブがかかった音像で、ビートもなく、ドリーミーで浮遊感に満ちた曲だ。ここでビビは、学生時代に友人たちとガレージで曲を作って楽しんでいたことと母の無理解を歌い、〈近寄らないで/誰も私のことを知らないから〉と吐露する。この疎外感が滲んだリリックが物語るように、本作にはスクリレックスが初心に戻っているようなところがあるのではないだろうか。

そのことにも関連するが、若い才能が多数参加し、彼らのエレメントが取り込まれることでフレッシュになっている印象が、本作は強い。既発のシングルで、ピンクパンサレスとトリッピー・レッドが参加した“Way Back”は、ピンクパンサレスの作風にかなり寄せた、ボーカルが乗ったショートドラムンベースだ。そして、ビヨンセの『RENAISSANCE』(2022年)にもフィーチャーされていたビームとの“Selecta”は、4つ打ちに寄せたダンスホール。ブレイド(Bladee)が参加した“Real Spring”はハイパーポップ/ディジコア風で、中盤のキッド・カディをフィーチャーした“Summertime”からジャスティン・ビーバー&ドン・トリヴァーとの“Don’t Go”にかけての一連の曲はポップなトラップ。ビビを再びフィーチャーしたラストの“Painting Rainbow”のビートには、アフロビーツのニュアンスが少々ある。

いずれにせよ、かつてのブロステップの影はなく(というか、ブロステップの時代も、彼にとって過程でしかなかったのだろう)、とにかく〈いま〉を意識し、カラフルなパレットによるショートチューンで構成された、ポップなダンスアルバムになっている。かといって、新しいものならなんでもありの、下世話で芯のないポップアルバムに堕してはいないのがやはり彼の才能のすごさで、洗練された緻密なプロダクションに、徹底的に裏打ちされている。

とはいえ、フィーチャーされたアーティストのリストを見るだけでも、王者の風格を強く感じる。変化を厭わず新たな才能とコラボレーションする生来の器用さと柔軟さ、そして確たる威厳と技巧。こんなことは、いまスクリレックスしかできないのではないだろうか? 『Quest For Fire』とあわせて圧巻の、素晴らしいカムバック作だ。

 


RELEASE INFORMATION
リリース:2023年2月17日(金)
配信リンク:https://skrillexjp.lnk.to/dgtc

TRACKLIST
1. Don’t Leave Me Like This (Skrillex & Bobby Raps)
2. Way Back (Skrillex, Pink Pantheress & Trippie Redd)
3. Selecta (Skrillex & BEAM)
4. Ceremony (Skrillex, Yung Lean & Bladee)
5. Real Spring (Skrillex & Bladee)
6. Summer Time (Skrillex & Kid Cudi)
7. Bad For Me (Skrillex, Corbin & Chief Keef)
8. 3am (Skrillex, Prentiss & Anthony Green)
9. Don’t Go (Skrillex, Justin Bieber & Don Toliver)
10. Don’t Get Too Close (Skrillex, Sonny Moore & Bibi Bourelly)
11. Mixed Signals (Skrillex & Swae Lee)
12. Painting Rainbows (Skrillex & Bibi Bourelly)