©Mary Ellen Matthews

空前絶後の超絶怒涛のニュー・アルバム! 世界に愛された男が世界を愛して新生した『Justice』は、辛い現実を見据えながらも世の中をエンターテインする!

自身の人生を受け止めた姿

 昨年2月の『Changes』からわずか13か月というインターヴァルでジャスティン・ビーバーが新作『Justice』を完成させた。前作と前々作の『Purpose』とのギャップが4年以上もあったことを考えると、とんでもないスピード感で制作されたアルバムなのだが、前作とは一転、この6枚目となるニュー・アルバムではガラリと変貌した新生ジャスティンの姿が認められる。

JUSTIN BIEBER 『Justice』 Schoolboy/Def Jam/ユニバーサル(2021)

 前作『Changes』においては、2013年作の『Journals』などで一緒だったプー・ベアとふたたびタッグを組んで、ボーイズIIメンなどに夢中だった幼い頃の自身のルーツを再確認したジャスティン。みずからそのサウンドを〈R&Bieber〉と呼んでR&B路線を全面的に打ち出した姿は、自身がなぜ歌を歌い、音楽をやろうと思ったのか、その理由や動機を改めて振り返り、再スタートを切ったかのような印象だった。が、新作『Justice』においては、自身のための原点回帰や、自分のための音楽というよりは、〈みんなのためのエンターテイナーとしてのジャスティン〉が戻ってきた。エンターテイナーとしての本領を発揮し、人々を楽しませるスターらしい煌めきで圧倒してくれる。

 昨年、先行シングルとして公表された“Holy”や“Lonely”の時点では、まだそこまで変化を感じることはできなかったかもしれない。チャンス・ザ・ラッパーをゲストに迎えたゴスペル調の“Holy”、ビリー・アイリッシュの兄フィニアスがプロデュースなどを手掛けたベニー・ブランコとのコラボ曲“Lonely”、そのどちらにも真摯でシリアスなムードが強く渦巻いていたせいだろうか。特に“Lonely”は、自身の孤独な人生を振り返り、いくら成功して名声を得ても独りぼっちだと切々と歌い上げられ、幼いジャスティンの登場するMV(映画『ルーム』や『ワンダー 君は太陽』のジェイコブ・トレンブレイが演じた)は、それこそ涙なくして見れない名作だった。そこに以前のような苛立ちや、理解してくれない他人や世間に対する怒りはもはや見当たらず、自身の人生や現実を静かに受け止めている、驚くほど穏やかな平静が立ち込めていた。