開放感に満ち溢れた再生の始まり――真摯なメッセージと挑戦的なサウンドでビヨンセが提示した『RENAISSANCE』は、新しい時代で皆が生きる喜びを享受するための圧倒的なセレブレーションだ!
ハウス・ミュージックへのオマージュ
ビヨンセが新作『RENAISSANCE』をリリースした。ソロ・アルバムとしては『Lemonade』から6年ぶり。ただし、2018年には夫ジェイ・Zとのカーターズとして『EVERYTHING IS LOVE』、2019年にはコーチェラ・フェスの実況盤『HOMECOMING: THE LIVE ALBUM』やミュージカル映画「ライオン・キング」関連の曲を出すなど、常に話題を振りまいていた。2020年には奴隷解放記念日を祝して“Black Parade”を発表したが、『Lemonade』の先行曲“Formation”あたりからブラックネスを強く打ち出しているビヨンセは、BLM運動再燃を経てリリースした今回の新作でも、その姿勢を崩していない。加えて今作には、性的少数者とそのカルチャーに対する温かい眼差しが強く感じられる。
アルバムのコンセプトは、先行シングル“BREAK MY SOUL”におおよそ集約されている。今作の主要制作陣のひとりであるドリームがトリッキー・スチュワートらと手掛けた同曲は、ロビンSの90sハウス・クラシック“Show Me Love”(93年)を引用。そのリミックス(The Queens Remix)でマドンナの“Vogue”(90年)がサンプリングされたことからも察しがつくように、同曲は90年代前半に黄金期を迎えたハウス・ミュージックへのオマージュである。映画「パリ、夜は眠らない。」(90年)でボールルームに集う黒人のクィアたちが描かれ、ヴォーギング(ダンス)が注目されたあの時代を回顧させるのだ。今回ビヨンセは新作発表に先駆け、ヴォーギングの名の由来となったVOGUE誌(UK版)の表紙も飾ったが、馬に跨るその姿は、ハウス以前のディスコ全盛時代、NYのクラブ〈スタジオ54〉の常連客だったビアンカ・ジャガー(ミック・ジャガーの元妻)が白馬に乗る写真を彷彿とさせた。同じく馬に跨る新作のジャケット写真も、ハウスやディスコ、そのカルチャー全体に向けた愛のサインなのだろう。加えて“BREAK MY SOUL”では、“Formation”で声を交えていたクィアの黒人でニューオーリンズ・バウンスの女王であるビッグ・フリーダの“Explode”(2014年)を猛々しい声も含めて引用し、クィア・カルチャーの今昔を繋いでいる。