©Lewis Evans

WAITING FOR INHALE
鮮やかなデビュー作で絶大な成果を残したインヘイラーが待望のセカンド・アルバムをリリース! 傷と痣にバンドとしての確かな成長を刻んだ仕上がりは瑞々しい煌めきに溢れている!

 2021年に素晴らしいファースト・アルバム『It Won’t Always Be Like This』をリリースして勇名を轟かせたアイルランドのギター・ロック・バンド、インヘイラー。ダブリンの学校で出会った面々によって前身バンドが結成された2012年から数えれば10年以上、現在の4人でインヘイラーを名乗るようになった2015年から数えてもすでに7年以上を数えるわけで、結束のアンサンブルは若いながらも歴史あり、着実な躍進と共に世界へ広がってきた。2018年にメジャー契約して初音源の“I Want You”を発表し、英BBCの〈Sound Of 2020〉にて5位にランクイン。2020年の初頭には東京で初来日公演も敢行している。コロナ禍の期間は動きが停滞するなかでも楽曲リリースを重ねて意欲的に支持を広げ、それらの集大成となる先述のアルバムは故郷のアイルランドとUKの両チャートで見事に初登場1位を記録した(アイルランドのバンドとしては13年ぶりの全英No.1獲得だそう)。このたび届いた『Cuts & Bruises』はそれから2年ぶりのセカンド・アルバムだ。

INHALER 『Cuts & Bruises』 Polydor/ユニバーサル(2023)

 2022年の彼らはグラストンベリーを含む夏フェスを転戦していたが、それに前後して発表されたシングル“These Are The Days”が新作へのキックオフとなった。何とも言えない若さが眩しすぎる同曲は80年代のニューウェイヴやUKインディー勢に影響を受けた彼らのエッセンシャルをさらに強固にしたもので、トラディショナルな何かに則りながらも不思議な新鮮さを鳴らすインヘイラー節の一曲と言っていい。それに続く2曲目の先行カット“Love Will Get You There”も持ち前の昂揚感に溢れていた。

 そんなわけで、引き続きアントニー・ジェンがプロデュースにあたった『Cuts & Bruises』も基本的には前作の美点を大きく裏切ることのない雰囲気でまとめられていて、キラキラしたギター・ロックの抒情性とメジャーなスケール感のある伸びやかな歌世界の広がりが文句ナシの聴き心地を約束してくれる。そんな音を浴びれば〈切り傷や痣〉というアルバム表題が若さのメタファーであることは疑いようもなくなるだろう。メランコリックに浮遊するリフの応酬がU2を連想させずにはおかない“Dublin In Ecstasy”、往年のスミスを思わせる“Valentine”、儚い雰囲気のミッド“The Things I Do”など各々の楽曲が個性を発し、ノスタルジックな翳りも備えつつ全体的にポジティヴな雰囲気がバンドとしてのコンディションの良さを窺わせる。

 昨年に英国のミニ・ツアーを終えた彼らは、ここからハリー・スタイルズのアイルランド公演やアークティック・モンキーズの欧州公演のサポート出演も行い、さらに夏には〈サマソニ〉出演も決定したばかり。絶好のタイミングで改めての日本上陸が果たされる前に、疼くような『Cuts & Bruises』の瑞々しい煌めきを堪能しておきたい。