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90年代後半、R&B/ヒップホップシーンでの再評価

90年代後半になると、海外での評価にも変化が出てくる。元々ロイ・エアーズやナタリー・コール&ピーボ・ブライソン、フィリス・ハイマンらにカバーされていた“風のシルエット”が、R&Bやヒップホップシーンで再注目され始めたのだ。

そして2パック“Do For Love”(98年)を筆頭に、アリーヤやエリカ・バドゥ、タチアナ・アリ、ファーザーMCなど、サンプリング事例が次々と。それを機に“My Flame”や2作目収録の“Open Your Eyes”“To Know What You’ve Got”なども続々ソース化され、AOR世代のみならず、クラブ世代の評価も上げていった。

2パックの97年作『R U Still Down? (Remember Me)』収録曲“Do For Love”。“What You Won’t Do For Love”をサンプリング

アリーヤの97年作『R U Still Down? (Remember Me)』収録曲“Do For Love”。“What You Won’t Do For Love”をサンプリング
エリカ・バドゥの97年のライブアルバム『Live』収録曲“Searching”。キーボードソロで“What You Won’t Do For Love”のメロディーを引用
タチアナ・アリの97年作『Kiss The Sky』収録曲“Boy You Knock Me Out”。“What You Won’t Do For Love”をサンプリング
ファーザーMCの93年作『Sex Is Law』収録曲“Ain’t Nuttin’ But A Party”。“What You Won’t Do For Love”をサンプリング
78年作『Bobby Caldwell』収録曲“My Flame”

ノトーリアス・B.I.G.の97年作『Life After Death』収録曲“Sky’s The Limit (feat. 112)”。“My Flame”をサンプリング

80年作『Cat In The Hat』収録曲“Open Your Eyes”

コモンの2000年作『Like Water for Chocolate』収録曲“The Light”。“Open Your Eyes”をサンプリング

80年作『Cat In The Hat』収録曲“To Know What You’ve Got”

これを自身にフィードバックさせたか、2015年にはヒップホップ世代のグラミー受賞プロデューサー:ジャック・スプラッシュとのユニット、クール・アンクルでアルバムをリリース。それが結果的にボビーの遺作になってしまう。それでもボビー自身がヒップホップシーンからのリスペクトやオマージュを肯定的に受け止めていたことが分かり、妙に嬉しく思えたものだ。

COOL UNCLE 『Cool Uncle』 Fresh Young Minds(2015)

クール・アンクルの2015年作『Cool Uncle』収録曲“Never Knew Love Before”

 

シナトラを敬愛するジャズシンガーとして

そうして〈ミスターAOR〉とか〈キング・オブ・AOR〉と崇められる一方で、本人はフランク・シナトラを敬愛し、ジャズスタンダードのカバーアルバムを作って、ビッグバンドを従えてステージに立ったこともあった。

AOR人気の高い日本では常にバランスを考えていたが、ラスベガスで開催されたラット・パック(シナトラを中心にディーン・マーティン、サミー・デイビス・ジュニアら数人が組んだグループ)のトリビュートショウではシナトラ役を演じ、ご満悦だったと聞いている。

BOBBY CALDWELL 『Blue Condition』 Sin-Drome(1996)

BOBBY CALDWELL 『After Dark』 Bobby Caldwell(2014)

 

ボビーが逝くのは早過ぎた

アルバム制作では完全主義を貫くボビーも、89年の復活以降は、スーツやジャケットの洒脱なイメージで通し、特に女性から人気を集めた。公演時のバックステージでも常に女性ゲストが最優先で、その優しい対応ぶりに苦笑させられることも。インタビューでは礼儀正しかったが、時に本音をこぼすこともあった。

海外でのヨットロック人気やシティポップの世界的ブームにあって、“風のシルエット”を始めとするボビー楽曲への需要は今もまったく衰えず、新しいカバーやネタは増え続ける。何れにせよ、ボビーが逝くのは、まだちょっと早過ぎたよ。

改めて、Rest In Peace...

2008年のライブ動画