〈邦楽編〉である『SUMMER BREEZE -CITY POP- ULTIMATE JAPANESE GROOVE』と同時にリリースされる〈洋楽編〉の『SUMMER BREEZE -AOR- ULTIMATE URBAN FAVORITES』。AORをテーマに選ばれた35曲がCD2枚にわたって収録されている、タワーレコード謹製のコンピレーションだ。

国内のシティ・ポップと並んで、ここ10年の間に世界的な再評価が進んだのがAORだ。(蔑称としての意味合いもあるので慎重に扱わなければならないものの)〈ヨット・ロック〉として再発見される一方、サンダーキャットのようなアーティストはAORを独自に解釈してその最新型を提示した。一時は完全に無風状態だったAORが近年こうやって注目されているのも、その音楽的な完成度の高さとエヴァーグリーンな魅力あってこそ。それは、本コンピを聴いてもらえればきっとわかるはず。

ディスク1は、AORの代名詞であるボズ・スキャッグスで始まり、ボズ・スキャッグスで終わる構成が素晴らしい。1曲目は“Lowdown”(76年)で、ファンキーでアッパーなグルーヴを強調した曲を冒頭に置いているところは邦楽編の構成とよく似ている(ぜひ併せて聴いてみてほしい)。2曲目、3曲目は永遠のクラシックであるボビー・コールドウェル“What You Won’t Do For Love(風のシルエット)”とレイ・パーカーJr.&レイディオ“Woman Needs Love”(81年)。コンピとして、見事なイントロダクション。

その他、デイヴィッド・フォスターとマイケル・マクドナルドが書いたケニー・ロギンス“Heart To Heart”(83年)、ジョージ・デュークがプロデュースしたデニース・ウイリアムス“Do What You Feel(スウィート・フィーリング)”(83年)、シャーデー“Kiss Of Life”(93年)などなど、ディスク1はスムースで心地よいグルーヴと心を掴んで離さないメロディーの宝庫だ。

そしてディスク2は、これまた代表的なAORアーティストであるエアプレイで始まり、エアプレイで終わる、という気の利いた構成(エアプレイといえば、5月にリリースされたばかりの角松敏生のニュー・アルバム『EARPLAY ~REBIRTH 2~』のジャケットはエアプレイへの愛あふれる直球オマージュだった)。TOTO“Georgy Porgy”(78年)、スティーヴン・ビショップ“On And On”(77年)、ペイジズ“The Sailor’s Song”(79年)といった〈これぞAOR〉な楽曲が並ぶなかで、スタイル・カウンシル“My Ever Changing Moods”(84年)のような英国製ブルー・アイド・ソウルを入れているところがユニーク。

田中康夫の小説「なんとなく、クリスタル」(80年)に登場するアーティスト/曲が12もあるように、AORの象徴的な名曲の数々が選ばれている本作。さらにAOR(アルバム・オリエンテッド・ロック)のロック視点だけでなく、R&Bの視点からも楽曲が多く選ばれている。タイトルの〈URBAN〉というキーワードあってこその選曲だと感じる。

シティ・ポップとは対照的に、〈アダルト〉であるからこそ若いリスナーにとってはなかなか入門しにくいかもしれないAORの世界。しかし、ヴェテラン・ラジオDJの矢口清治による解説も付いたこのアルバムは、実にいいガイドになってくれるだろう。その一方で初CD化音源が4曲も含まれており、マニアも注目すべきコンピとなっている。レーベルの枠を越えて選ばれた35の楽曲を、ぜひ堪能してほしい。