幾何学のような、雨だれのような、ゆるやかな熱帯の音が奏でるふたつの組曲の〈宇宙〉
ボロブドゥール寺院遺跡に代表されるようにガムランの故郷・インドネシアはかつて仏教文化が開花した地でもある。熱帯の植物の中に埋め込まれるように神仏が描かれる姿はそこがインドとの交易の世界であったことを思い起こさせてくれる。
藤枝守とパラグナ・グループによる〈両界ガムラン曼荼羅〉公演が自由学園明日館講堂にて5月5日と6日に開催される。ここでの〈両界〉とは2000年に発表された組曲“ガムラン曼荼羅”と今回発表される“ガムラン曼荼羅II”のふたつの組曲を〈陰陽〉の概念とかけている。
8つの楽曲からなる組曲“ガムラン曼荼羅”の曲はそれぞれが8つのパターンで構成され、そのパターンは6つの楽器パートの円環で演奏される。この構造を図示してみると、楽器の編成をステージの上から見た図にも、そしてボロブドゥールを俯瞰した姿にもよく似ている。ボロブドゥールが曼陀羅を建築としてあらわしたものであるならば、“ガムラン曼荼羅”はまさに音で構成された宇宙の表現のようだ。
ガムランにはいわゆるペンタトニックのような明るく東洋的な響きを持つスレンドロと、半音を含み沖縄民謡やインド音階に似た憂いや湿気のニュアンスを感じさせるペロッグというふたつの音階が使用される。本作ではペロッグとスレンドロが交互に登場し〈陰陽〉〈両界〉というキーワードに対応している。
面白いのはメロディには藤枝氏が追求してきた〈植物文様シリーズ〉の一環として、植物の電位変化のデータを転換して使用していることだ。本作のパターンは福岡の香椎宮の御神木〈綾杉〉のデータを変換したものが用いられている。
インドネシアは世界史を通じてインドとの交易の海域と、ベトナム~中国~沖縄そして日本につらなるふたつの海域が交錯する地点であり続けてきた。そこで生まれたのがガムランであり、藤枝氏が拠点とする福岡はその終着点でもある――そんなイメージがこの現代音楽の思考がたどり着いた組曲の到達点から見えてくる。
会場となる自由学園明日館はフランク・ロイド・ライトが昭和初期に手掛けた、幾何学を感じさせる清楚な佇まいが実に心地よい空間だ。『ガムラン曼荼羅』の意外なほどに優しくゆるやかな金属のトーンは、雨だれや木漏れ日のきらめきや鳥のさえずりや様々な熱帯の自然の姿を彷彿とさせる。ちょうど森のなかから神々が顔を出す熱帯の曼陀羅のようではないか。
LIVE INFORMATION
両界ガムラン曼荼羅
2023年5月5日(金・祝)東京・池袋 自由学園明日館・講堂
開場/開演:17:30/18:00
2023年5月6日(土)東京・池袋 自由学園明日館・講堂
開場/開演:14:30/15:00
■曲目
藤枝守作品:組曲「ガムラン曼荼羅I」(2020)/組曲「ガムラン曼荼羅II」(2022、新作)
■出演
ガムラン:パラグナ・グループ
舞踊:リアント/ボヴェ太郎/川島未耒/佐草夏美
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