〈池袋電脳カフェ〉の立体的な解読を試み、幻の冊子を復刻!
86年ごろ、Macintoshコンピュータを鎮座させてインタラクティブな作曲・パフォーマンスソフトの〈M〉を使ってマウスで音楽を奏でるというスタイルを行った先駆者がCarl Stoneだった。藤枝守はこのスタイルに強く影響を受け、PCをステージに持ち込む発想が決定的になったと言っているほどのエポックメイキングな出来事だった。
高価で巨大なコンピュータ環境を必要とせず、それでも高価ではあったが個人ベースでも購入可能なコンパクトなコンピュータの登場で実験音楽の状況が大きく変わっていく。当時の先鋭的な作曲家たちが個人レベルでこういった制作環境を用意できるようになったことで、リスナーもカジュアルに現代音楽を体験する機会が増えてきた。その1つが1991年9月に西武アール・ヴィヴァン運営のスペースで高橋悠治が企画したイヴェント〈池袋電脳カフェ〉だった。西武はリブロポートなども持ち、幅広くアートにコミットしていた時代。〈M〉からオブジェクト指向のプログラム環境〈Max〉に道具は変わり、作曲家は更に柔軟性を確保し、様々な作品を産み出していく。
高橋悠治は程なくこの手のツールの使用は消極的になる一方、藤枝守はMaxをより積極的に採用。Maxによって生成したものを生身の演奏家に演奏させる手法を発展させ、やがて響き(純正調)の領域まで進出する。
Maxによってインタラクティヴな要素が盛り込めたことも手伝って、多くの場所での演奏会や国内外のアーティストとの共演なども積極的におこなわれたが、その先鞭をつけたのが、この〈池袋電脳カフェ〉だったと言える。
本作は当時カセットでリリースされ、その後同エム・レコードによってCD復刻されたものに更に超貴重な資料(来場者に配賦された冊子とフライヤー)の復刻を追加して再リリースされたものだ。入手は超困難なので、冊子を読みながら当時の彼らの思惑を知り、当時の現代音楽の持つ解放的な雰囲気をぜひ体感して欲しい。