真夏のサントリーホールに出現する、ありえるかもしれない音楽。
〈世界一美しい響き〉を織りなすガムランのコスモロジー。
真夏の縁側。縁側は内でもない、外でもない空間として特異な位置にある。京都の庭について西洋人からよく聞かれる質問として印象深かったのが〈縁側は果たして屋内なのか、屋外なのか〉という話だ。
80年代、われわれ人類の前にあらわれた情報テクノロジーにはいくつかの可能性と選択肢があった。その可能性を表現すべく〈ありえるかもしれない〉夢のような世界が描かれ、また同時にディストピアも描かれた。あれから数十年が経ち、われわれはいよいよとある選択を手にし、ありえたかもしれない可能性を手放しつつある。
〈世界一美しい響き〉をもつひとつの楽器として設計されたサントリーホール
真夏の西洋音楽の祭典ー緯度の高いヨーロッパでは〈夏至祭〉が行われ、特に朝まで日の沈まない北欧では夜通し音楽が奏でられる行事が伝統的におこなわれてきた。このような伝統的な年中行事が英国ではジャズやロックの分野で展開し、60年代から70年代にかけては若者文化の変革と併走しながら巨大な野外音楽フェスティバルとして発展し定着していった。我が国でも夏休み期間に開催されるさまざまな音楽フェスはもともとはこの文脈によっている。
サントリー芸術財団によって80年代のサントリーホールのオープン以来開催され続けているのが現代音楽の祭典〈サントリーホール(旧:サントリー芸術財団)サマーフェスティバル〉だ。
80年代にはこども音楽コンクールと〈20世紀の音楽〉をテーマにしたコンサートを軸に、90年代にはシェーンベルク、リゲティ、クセナキス、プロコフィエフ、ジョン・ケージと、ざっとあげただけでも音楽の根底をくつがえしてきたテーマ作家たちや、早くから邦楽や中国の作家なども交えて開催されてきたあたりからもこのフェスティバルの性格を窺い知ることができよう。現在は〈ザ・プロデューサー・シリーズ〉、〈テーマ作曲家〉、そして〈芥川也寸志サントリー作曲賞選考演奏会〉の三つが大きな柱となっている。
サントリーホールはそれ自体が〈世界一美しい響き〉をコンセプトに建設されたひとつの楽器である、という設計思想を持っている。
この〈世界一美しい響き〉をコンセプトに建設された大ホールは〈ヴィンヤード形式〉と呼ばれワイナリーの葡萄畑の形をしている。ヴィンヤード(葡萄畑)形式はベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のホールに初めて採用され、建築家ハンス・シャロウンの手によってベルリンの爆撃で失われたドイツの都市文化の復興理念とともに設計されたものだ。
ウイスキーにも〈響〉というブランドがあり、ブレンドによる芳香や味のひびきあいという意味合いとともに自然と人間の響きという意味もかけている。かようにサントリーという企業と〈響き〉という概念の間にはなかなか奥の深い世界がある。