サイケでアングラ
『In Times New Roman...』はバンドによるセルフ・プロデュース。基本、5人の演奏だけで作り上げた作品だ。歪みに揺れを加えた音色でギター・リフが鳴る“Obscenery”から始まり、そのあと畳み掛けるようにリフで押すロック・ナンバー“Paper Machete”“Negative Space”が続き、ギター2本のダイナミックなアンサンブルと共にQOTSA節をアピールする。テンポを落として、ジョシュがファルセットを交えながら、リラックスした歌声で胸を焦がすようなメロディーを歌う“Negative Space”は、フレーズを互いに絡み合わせるようにジョシュとトロイが奏でるギター・ソロも聴きどころ。この色気こそがQOTSAの真骨頂。それらを磨き上げることによって、QOTSAはガツンとくるロックを求めるリスナー以外の層にも食い込んできた。
続く“Time & Place”はQOTSA流のアシッド・ロック・ナンバー。リヴァービーなサウンドのなか、フリーキーに鳴るギターとクラウトロックを思わせるドラムがトリップ感を演出しつつベース・プレイがファンキーなグルーヴを演奏に加えているところがおもしろい。メタリックなブギをエフェクティヴなギター・サウンドでポップかつエキセントリックに仕上げた“Made To Parade”を挟んで、“Carnavoyeur”“What The Peephole Say”と60年代風のガレージ~サイケ・ナンバーが2曲並ぶ。前者はオルガンとサブベースのドローン効果が絶妙なバラード、後者はダンス・ロックと曲調の振り幅は広い。後者ではジョシュがイギー・ポップばりのエネルギッシュなシャウトを披露している。
“Sicily”はストリングスが神経を逆撫でするように鳴るスロウなゴシック・ロック・ナンバー。“Emotion Sickness”はQOTSAらしいリフ・ロックを思わせながらも、曲に不釣り合いなほど爽やかなハーモニーが加わり、聴き手を翻弄する。ラストを飾る9分超えのスロウ・ブギ“Straight Jacket Fitting”は曲調とも相まって、ジョシュの歌が『Waiting For The Sun』、あるいは『L.A. Woman』の頃のジム・モリソンを彷彿とさせるのだが、パンクの精神を持つアメリカのハード・ロック・バンドとして、まったくもって正しいと思う。そして、曲の後半は、アコースティック・ギターを爪弾くラテン・フォークロア風になって、アルバムは静かに終わる。
前段で試金石と書いたが、どうだろう? 磨き上げてきた洗練やグラマラスな質感は残しながらも、アングラ臭が戻ってきた印象もある。何よりも有名プロデューサーの助けを借りず、自分たちだけで作り上げたところがいい。それぞれに実力派ミュージシャンである5人がふたたび一丸となって、ロック・シーンを震わせるアルバムを作ってしまったのだから、QOTSAが持つ求心力はこれっぽっちも衰えていなかったのである。 *山口智男
クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジの過去作。
左から、2013年作『...Like Clockwork』、2017年作『Villains』(共にMatador)
QOTSAのメンバーが参加した近年のアルバムを一部紹介。
左から、ジャック・ホワイトの2022年作『Entering Heaven Alive』(Third Man)、ポール・マッカートニーの2021年のリメイク集『McCartney III Imagined』(Capitol)、ラン・ザ・ジュエルズの2020年作『RTJ4』(Jewel Runners)、ブライト・アイズの2020年作『Down In The Weeds, Where The World Once Was』(Dead Oceans)