Pファンクにロック……色鮮やかに音を重ねながら、テキサス拠点のシンガーは歌い上げる。濃厚な音楽絵巻を完成させたブラック・オデッセイの歩みとは?

 カセットテープをデッキに押し込む音に続いて、〈Diamonds & Freaksにようこそ〉と女性のアナウンスが聴こえる。雪崩れ込むようにフルートやサックスが浮遊感溢れるフレーズを奏でるなか、ラッパーがつんのめるようなフロウで言葉を吐き出しはじめる……。

 ブラック・オデッセイことジュワン・エルクックのセカンド・アルバム『Diamonds & Freaks』を予備知識抜きで聴いて、彼の本拠地がテキサスだと気付くリスナーは少ないはずだ。テキサスといえば、古くはゲットー・ボーイズやUGK、近年ではトラヴィス・スコットやミーガン・ジー・スタリオンといったタフなラッパーたちの出身地という印象が強いからだ。

 もっとも彼らの大半が石油産業やNASAで有名な工業都市ヒューストンを拠点にしているのに対して、ブラック・オデッセイの拠点はIT企業やSXSWで知られる文化都市のオースティン。ジャンルを横断するような風通しの良さは、この街のリベラルな風土を反映しているのだろう。

 ユニットの歴史は、ニュージャージー州プレインフィールド生まれでシンガー・ソングライターを志望していた黒人青年のエルクックが、オースティンの文化風土に惹かれて移住し、ギタリストのアレハンドロ・リオスとバンド、サム・ヒューストン&ブラック・オデッセイを結成したことに遡る。

 当時の音楽性はアメリカーナとハード・ロックを混ぜたユニークなもの。相棒のリオスは恐らくメキシコ系で、ほかのメンバーにも黒人はいない。エルクックはルーツから離れることで個性を獲得しようと考えていたのではないか。

 バンドは地元で支持を集めはじめ、ショーン・ジェイムズとツアーを行うまでになっていたものの、予期せぬ困難が襲いかかった。COVID-19のパンデミックである。バンドは活動休止に追い込まれてしまった。

 その期間、エルクックはひたすら自己に向き合ったという。結果、黒人としてのルーツに回帰した彼はバンドのサウンドを一新し、2021年にファースト・アルバム『BLK Vintage』を発表した。

 同作がケンドリック・ラマーやディアンジェロにインスパイアされていたのは明らかだったが、洗練味以上にロック的な重さと引きずるようなグルーヴが印象的。Pファンク、特にファンカデリックからの影響が濃厚なのだ。実はエルクックが生まれたプレインフィールドは、Pファンクの総帥ジョージ・クリントンが活動を始めた街。ルーツ探しの旅の果てに、彼はPファンクの漆黒の宇宙に辿り着いたのだろう。

 上記のような経緯もあって、2022年にリリースされた初作のアップデート版『BLK Vintage:The Reprise』には、ジョージ・クリントンとの共演による新曲“Benny’s Got The Gun”が追加収録された。硬派なラッパー、ベニー・ザ・ブッチャーもフィーチャーされたこの曲は、エルクックが13歳のときに警察に射殺された兄を題材にしたヘヴィーなもの。この曲で一躍、ブラック・オデッセイは多数の音楽メディアから注目を集めるようになった。その勢いを持続させて制作したのが、新作『Diamonds & Freaks』だというわけだ。

BLK ODYSSY 『Diamonds & Freaks』 Empire(2023)

 本作では曲ごとに楽器編成が入れ替わり、エルクックはまるで絵筆を使うようにサウンドを構築している。クリントンに次ぐPファンクのスーパースター、ブーツィー・コリンズ参加の“Honeysuckle Neckbone”では、恋に破れた男の後悔を赤裸々に語り、“Odee”では濃厚なスロウ・ジャムを聴かせる。“You Gotta Man”には往年のスウィート・ソウルでリード楽器としてよく使われたエレキ・シタールが導入されているが、60年代サイケデリック・ロック風に聴こえるのがおもしろい。またラッパーのラプソディーが客演した表題曲やアルケミストがプロデュースを手掛けた“Judas & The Holy Mother Of Stank”ではメインストリームのビート感覚に歩み寄る余裕も見せている。恐らく前作以上の注目を集めるに違いない。

 本作を引っ提げてのライヴ・パフォーマンスにも大いに期待だ。というのも、最近のライヴ動画を観る限り、リオスの弾くラウドでブルージーなギターをバックにソウルフルなヴォーカルを聴かせるエルクックの姿は、まるでジミ・ヘンドリックスをバックに歌うカーティス・メイフィールドみたいだからだ。

ブラック・オデッセイの2022年作『BLK Vintage: The Reprise』(Empire)

『Diamonds & Freaks』参加アーティストの作品。
左から、コリー・ヘンリーの2016年作『The Revival』(Ground Up)、ブーツィー・コリンズの2020年作『The Power Of The One』(Sweetwater)、ラプソディの2019年作『Eve』(Roc Nation)、アルケミストがラリー・ジューンとコラボした2023年作『The Great Escape』(Freeminded/Empire)