海野雅威、トリオによる新作『I Am, Because You Are』を語る

 ニューヨークを拠点に活躍するピアニスト、海野雅威が、トリオによる新作『I Am, Because You Are』をリリースした。2020年にニューヨークで暴漢に襲われて重傷を負った彼は、不屈の精神で奇跡的に復活、2022年3月には『Get My Mojo Back』を発表。今回の新作は2018年からレギュラーで活動しているダントン・ボーラー(ベース)、ジェローム・ジェニングス(ドラムス)とのトリオによるもの。ジャズの伝統を尊重しつつ新しいサウンドを模索する海野に話を聞いた。

海野雅威トリオ 『I Am, Because You Are』 ユニバーサル(2023)

 

――新作はレギュラー・トリオによる録音ですね。海野さんがメンバーに求めることは何ですか?

「その人と共演すると自分の想像をはるかに超える演奏を引き出してくれて、お互いに感化し合えるミュージシャンが好きです。後は人間として信頼できる、心が通じる相手であるか、がとても大きくて、二人とも僕が怪我をしたときも助けてくれた親友です」

――今回はルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオでの録音です。海野さんはルディの最後の録音に参加されたんですよね。

「2016年にジミー・コブのピアニストとして録音に参加したのですが、ルディは当時91歳で、すでに引退されていました。でもジミーの仕事だから何としても自分が録音する、と。そしてルディが、〈君がリーダーのときには僕が録音するから〉と言ってくれました。でもその2ヶ月後にルディは亡くなり、僕はロイ・ハーグローヴのピアニストになった。その後コロナ禍になり、事件に巻き込まれて、ルディとの約束を果たしてスタジオに戻ってくるまで7年かかってしまいました。今回はルディの唯一の弟子、モーリン・シックラーさんの自然な録音がすばらしかったし、ジム・アンダーソンのミックスも流石でした」

――海野さんの演奏からジャズの伝統と新しさの両立を感じます。

「懐古主義的なことをやりたい、とはまったく思いません。ただ、僕は脈々と受け継がれてきたジャズの歴史から多くの事を学んできました。ジャズ・レジェンドは遠い憧れの存在ですが、僕は彼らが現役のうちに会いたい、と強く願いニューヨークに渡りました。実際にその人柄に触れて感じるためです。その気持ちがジミー・コブやロイ・ハーグローヴなどに信頼され、必要とされる事に繋がったのだと思います。ジャズの歴史、偉大な先人たちに敬意を払い、その上で自分の感性で表現していく事は、結果的に新しさにも繋がるのでしょう。自分のやるべきことはそれなんだ、と思っています」