ニコニコ動画へ歌ってみた動画を投稿したことをきっかけに、歌い手としての活動をスタートさせたAdo。視聴者を圧倒する歌声と歌唱力、さらにその独特なキャラクターからネットを中心に多くのファンを獲得していった。

その後は承知の通り、Adoは“うっせぇわ”(2020年)のヒットにより大ブレイク。瞬く間にJ-Popシーンの中心に躍り出たかと思えば、2022年にはApple Musicのデイリーチャート〈トップ100:グローバル〉にて“新時代”が全世界1位を獲得するなど、この1年でその名前と歌声が世界規模でシェアされる存在へとなっていった。

Adoはなぜここまで大きな存在となったのか。それは彼女だけの力ではなく、楽曲を提供した作家陣による手腕も間違いなく影響している。本稿では、昨年夏からの1年間をメインに、Adoがシンガー/歌い手として成長していく上で欠かせない楽曲をピックアップ。楽曲を手がけたアーティストとの化学反応を、ライタのー〈月の人〉に紐解いてもらった。 *Mikiki編集部


 

表現の枠を広げた中田ヤスタカ、椎名林檎ら

Adoと言えば、メジャーデビュー曲“うっせぇわ”が今なお象徴的な1曲として彼女と結び付けられがちである。主にZ世代の抱える抑圧を毒と反抗に満ちた歌詞で壊していく“うっせぇわ”は、Adoの太く荒々しい歌声の魅力を届ける上で最適だった。しかし同時に、〈同世代の怒りの代弁者〉というイメージを聴き手に芽生えさせたとも言える。こうした根強いパブリックイメージを抱えながらも、彼女はシンガーとして柔軟に表現力を磨いてきた。ここ1年間のAdoが発表した楽曲から、その進化を紐解いてみたい。

Adoが歌唱、中田ヤスタカ(CAPSULE)が書き下ろした“新時代”は、映画「ONE PIECE FILM RED」の主題歌として昨年大ヒットを記録。Adoは劇中の登場人物ウタの歌唱キャストも務めたことから、ウタ from ONE PIECE FILM RED名義でリリースされた。役柄を憑依させる難度の高いアプローチによる歌唱によって、Ado特有の〈がなり〉を多用しない伸びやかな歌声という新たな魅力を開花させていた。歌詞に込められたエネルギッシュなメッセージとともに、表現者として次のステージが見える1曲となった。

2022年のアルバム『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』収録曲“新時代”

そんな“新時代”のヒットが続くなか、昨年秋には椎名林檎が作詞作曲を担当した“行方知れず”を発表。映画「カラダ探し」主題歌として書き下ろされたロックナンバーは、外野からの声を寄せつけることなく、世をたくましく闊歩する姿を讃えるような楽曲である。シーンの先導者から贈られたエンパワーメントに応えるよう、Adoも艶やかで怪しげな歌唱を響かせており、これまで以上に個性の強い節回しも披露してみせた。

2022年のシングル“行方知れず”

今年3月にリリースした‟アタシは問題作“はピノキオピーによる提供曲だ。自虐気味に強がりながら、隠し持った弱さを見せるような楽曲で、乾いた質感も含めて”行方知れず“とは正反対の歌唱表現である。こうした楽曲の存在は、シンガーとしての自分とパーソナルな部分をそっと救う役割を果たしている。Adoの表現者としてのアイデンティティを様々な角度から育むための重要な曲と言えるだろう。

2023年のシングル“アタシは問題作”