謎の向こう側に住まう不可思議な存在が、また蠢きはじめた。新たなシュールと共に臨む、最初の禁じられた娯楽とは……
禁断の多数決は不思議なバンドだ。いや、もう〈バンド〉という言葉では安易に括れないかもしれない。昨年発表のアルバム『アラビアの禁断の多数決』をはじめとする摩訶不思議な作品群を発表しつつ、人前でのライヴはまだ一度きり。さらにメンバーも流動的で、どちらかといえば〈プロジェクト〉または〈アメーバ状の不定形音楽集団〉と呼んだほうがしっくりとくる気がする。ちなみに現時点でのメンバーは、中心人物であるほうのきかずなり(ヴォーカル/サンプラー/ドラムス)をはじめ、はましたまさし、シノザキサトシ、ブラジル、阿部はりか(元てんぷらちゃん)の5人に、バンド初期に在籍していたakorineが復帰、さらに加奈子、水蓮寺・J・さひろ、上野勇介の3人を新たに迎え、総勢9人編成となっているようだ。さっそく、ほうのきに新メンバーについて語ってもらった。
「加奈子ちゃんとはインターネット・ワールドで知り合いました。さひろちゃんは空港でブラジルちゃんと出会って仲良くなり、紹介されました。上野くんとは以前からの友達で、フォークロアキッチンというバンドもやっています」。
さて、そんな大所帯となった彼らが放つニューEP『エンタテインメント』は、Fragmentが主宰する術ノ穴からのリリース。少し意外にも思えるが、ジャンルの枠に囚われない音楽性を志向する彼らにとってはむしろ自然な巡り合わせと言えるだろう。さらに、リード・トラック“ちゅうとはんぱはやめて”には、『卒業と、それまでのうとうと』(2012年)、『マイルーム・マイステージ』(2013年)の2作品で一躍注目を浴びた女性MC、泉まくらをフィーチャー。禁断のシュールな歌詞に挿まれる形で、泉のちょっとシニカルで生々しい(でも誰もが心の底で抱いている)リリックが淡々と呟かれる、メロウかつビターなヒップホップ・チューンとなっている。
「もともと、泉さんの歌い方、歌声、雰囲気が好きで。ただ、泉さんの詞はエモーショナルなので、禁断のわけのわからない歌詞と合うかな?と思っていたんですけど、やってみたら対比がおもしろくて、とてもユニークな曲になったと思います」。
また、カップリングには「幻想よりも少しリアルなナイト・クルージング感を意識した」という“メロウ・フィーリング”、「ジョン・カーペンターの映画のスコアを念頭に置いた」“秘密の世界”という2つの新曲に加え、Tomgggと食品まつり、そしてFragmentが手掛けたリミックス音源が収められている。
「Fragmentさんのリミックスはエイフェックス・ツインが原曲を無視して作った、みたいな感じで痛快でしたね」。
ところで、今回のEPのタイトルはズバリ『エンタテインメント』だが、果たして禁断にとって〈最高のエンタテインメント〉とは何なのだろう?
「まだ一度しかしてないのですが、〈ライヴ〉でしょうか。それも〈ショウ〉的なものをしたいんです。小津安二郎の『浮草』に出てくる大衆演劇とか、サーカスとか、夜のカーニバルみたいな……」。
最近なら、今年6月に大阪で行われた〈スーパーカミオカンデ66〉(複数会場で同時多発的に開催された、サーキット形式のアート・イヴェント)に刺激を受けたと語るほうのきは、今後のライヴ活動にも意欲的だという。さらに、年内には企画もののアルバムを一枚予定しているらしい彼らだが、次はいったいどんな〈エンタテインメント〉を我々に届けてくれるのだろう? 最後に、ほうのきがそのヒントになるような興味深い発言をしてくれた。
「禁断の多数決は女性陣が皆、大変におもしろくて魅力的なんです。彼女たちの自由な振る舞いに期待してください。そこには〈最高のエンタテインメント〉があると思います」。
▼禁断の多数決の作品
左から、2012年作『はじめにアイがあった』、2013年作『アラビアの禁断の多数決』(共にAWDR/LR2)
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