バンドの原点であるライヴ・パフォーマンスの純粋なエネルギーを高い熱量で追求した強力なアルバムが完成――現代のロックスターは不寛容な時代に抗って愛を叫ぶ!
〈原点〉と〈成熟〉を併せ持ちながら、グレタ・ヴァン・フリートは新たな章に突入した。彼らの2年ぶりとなるサード・アルバム『Starcatcher』は、過去作の延長線上に位置しながらも、次のフェイズに突き進んだ傑作だと断言したい。今回のタイミングで、ライヴ現場で培った経験値をダイレクトに放出させる術を得たのかもしれない。とにかく、パッションの奔流が歌声にも演奏にも溢れ、どうだ!と言わんばかりの潔い楽曲が並んでいる。もちろん、彼らならではの豊潤なメロディーラインも満載だ。今作に何度となく向き合っているが、その生命力と普遍性に心を奪われっぱなしである。
まずは、2021年のセカンド・アルバム『The Battle At Garden’s Gate』リリース以降の状況について軽く触れたい。彼らは積極的にツアーを回り、繊細かつ大胆、フリーキーに楽曲を発展させる魅惑のステージで世界中の音楽ファンを熱狂させていた。一方、華やかな光の裏に影を落とす出来事もあった。2022年にジョシュ・キスカ(ヴォーカル)、ジェイク・キスカ(ギター)の兄弟が体調不良に陥り、同年にはジョシュの鼓膜が破れるというアクシデントに見舞われ、以降のライヴは延期を余儀なくされてしまった。
そんななか今年に入って、ジョシュは自身が暮らすテネシーなどの州議会で反LGBTQ+法案が提出されたことを受け、Instagramにて〈議員たちが愛を脅かす法案を提出している。自分のためだけでなく、テネシーやその他の地域で心、考え、法律が変わることを願い、僕の真実を語る。僕はこの8年間、同性のパートナーと愛に溢れた関係にあるんだ〉とカミングアウトしたのだ。ご存知の通り、グレタ・ヴァン・フリートは60年代の音楽だけではなく、その時代のムーヴメントからも多大な影響を受けている。ラヴ&ピースの思想を現代に受け継ぎ、大きな意味で愛を歌うこと。それはこのバンドの根幹を担うメッセージである。そうした〈人間愛〉もまた、彼らが鳴らす雄大で気高いサウンドに表徴されているのは間違いない。
すでにMVが公開されている先行シングル“Meeting The Master”はライヴ映像もYouTubeにアップされている。曲の後半に〈All Of Our Love〉とジョシュは高らかに歌い上げ、巨大スタジアムを埋め尽くす数万人規模の観客が大フィーヴァーする様子は感動的。新作からは“The Falling Sky”もライヴ映像が公開されており、そこではジョシュみずからハーモニカを吹いて曲に新たな彩りを加えている。ツアーでも率先して新曲をプレイし、アルバムに対する期待感をリアル/映像の両面から煽ってきたのだ。
このサード・アルバムはその期待値を優に超える出来映えだ。デイヴ・コブをプロデューサーに迎え、バンドが拠点を置くナッシュヴィルの伝説的なRCAスタジオで録音。振り返れば前作は9分近い“The Weight Of Dreams”を収めるなど、ディテールにこだわることで必然的に曲の尺は長くなった。けれど、今作は「できるかぎりステージの音に近づけたい、ライヴで再現しやすい曲を作りたいと思った」とダニー・ワグナー(ドラムス)が語る通り、ジョシュとジェイク、サム(ベース/キーボード)のキスカ3兄弟とダニーが4人で膝を突き合わせて、スタジオでアレンジを練ったそうだ。そこにはルーツ回帰の側面もあり、バンド初期の熱量を蘇らせると共に、メンバー個々のミュージシャンシップをぶつけ合うチャレンジを決行。「突然、一斉射撃みたいに物事が始まった」とスタジオ内の空気を語るジョシュの言葉は興味深い。
1分台のショート曲“Runway Blues”はその象徴的な例で、セットリストのどこに置いても活躍できそうなエネルギッシュなナンバー。ジェイクがチューニングを変えて挑んだサイケな冒頭曲“Fate Of The Faithful”も聴き応え十分だし、イントロに会話を挿入した“Frozen Light”のリラックスしたグルーヴ感も実に新鮮に響く。さらにアコギの美しい旋律を活かした牧歌的な“Farewell For Now”のような楽曲も収録。過去2作とは異なる制作過程で挑んだ今作ではバンドとしてもヴィヴィッドな躍動感とスケールを獲得することに成功。今年を代表する一枚として強力に推したい。
グレタ・ヴァン・フリートのフル・アルバム。
左から、2018年作『Anthem Of The Peaceful Army』、2021年作『The Battle At Garden's Gate』(共にLava/Republic)