将来への不安と期待を率直に綴った『僕ら』から1年、少し大人になった4人はこう歌う。僕らじゃなきゃダメになって――自信に溢れた初作は、バンドの新たなスタート地点だ!
関西を拠点に活動している4人組バンド、ハク。がファースト・アルバム『僕らじゃなきゃダメになって』をリリースする。昨年のEP『僕ら』収録の4曲を含む全10曲から成る本作には、この1年を経て、さらなる成長を遂げたバンドが映し出されている。
「これまでのハク。は浮遊感のあるドリーム・ポップっぽい曲が多かったんですけど、私は〈バンドの力強い姿をもっと見せたいな〉と思ったんです。一貫性はありつつも、違う匂いというか、聴いた人が〈えっ? これもハク。?〉と驚いてもらえるアルバムを作りたかった」(あい、ヴォーカル/ギター:以下同)。
そんな新境地を提示したアルバムは、1曲目の“回転してから考える”から、ポスト・ロックやエモを彷彿とさせるアンサンブルがフレッシュ。静と動のコントラストが効いたリズム、ソリッドなギターの音に耳を奪われる。
「まゆ(ドラムス)のシンバルとか機械的な感じでおもしろいですよね。ポスト・ロック感は意識していました。演奏面で難しい曲だけど、だからこそメンバーが集中して弾いている姿にカッコよさを感じます」。
続く2曲目“自由のショート”は淡々としたリズムを据えたロック・ナンバー。歩くスピードでゆっくりと音を紡ぎながら、コーラスでは一気に開放感が喚起される。
「この曲は当初、きのこ帝国っぽいなと思っていました。制作中はポリスの“Every Breath You Take”を参考に聴いていましたね」。
女友達とお酒を飲み、いろいろなことを話しながら、夜の街を謳歌し、未来を考える様を描いた“自由のショート”は、20歳を過ぎたばかりの彼女たちの日常がモチーフだ。高校生からバンドを始め、瑞々しい感性で渦中にある思春期を歌ってきたハク。。だが、このアルバムには、少しだけ大人になった4人が見える。
「私は生活から曲が生まれるんですけど、専門学校を卒業して生活にも変化があったし、それがハク。の音楽にも反映されていますね。学生のときは終電でちゃんと帰っていたけど、いまは終電で帰らないということもあるし(笑)」。
学校で同期だったバンドの解散ライヴを観たあとに書いたというセンチメンタルな“第六感”、「倉庫で録った音みたい」と語るドラム・サウンドが強烈なオルタナ・ロック“なつ”、推進力に溢れた“君は日向”などその他のアルバム曲も強力。ラストを飾るのは先行シングルとしてもリリースされた“僕らじゃなきゃだめになって”だ。
「この曲も、アルバム・プロデューサーの河野圭さんといろいろ実験しながら作った曲。スネアの音なんかは多くのパターンを試して、しっくりくるものを探しました。あと、なずなのギターが良いですよね。キラキラしているけど子供っぽくなくて」。
学生から大人になり、メンバー同士の関係性がそれまでと同じでなくなることへの不安も期待も正直に描かれていたEP『僕ら』を経て、ハク。自身も変化した。
「EPのときは、まだ迷いもあったし自分を納得させるために歌っているところもあったんですけど、最近は、ベースのカノをはじめバンド全体がより本気でハク。に取り組んでいるので、少しは自信を持てていると思います。想いや意見をしっかり伝え合うようになったし、それくらい真剣にやらないと、聴いている人にも伝わらないぞと話していて。その気持ちは演奏にも出ていると思いますね。心情の変化は音に出ると前から聞いていたけど、〈こんなにも変わるんや〉と私たち自身も驚いていて(笑)。そういうバンドのムードに後押しされて、私も〈僕ら=いまのハク。〉を歌いつつ、リスナーにとってのそれぞれの〈僕ら〉を肯定するような音楽を作りたいと思ったんです」。
そんな本作でタイトルに掲げられた〈僕らじゃなきゃダメになって〉という強い言葉には、バンド自身の覚悟やリスナーへのメッセージが託されている。
「バンドを始めて5年経ったんですけど、他のバンドと比べて〈遅い〉とか〈できていない〉とか思わなくなりました。遅かろうが、いまをスタート地点にしてがんばっていけばいいし、そういう考えこそが生きていくうえで大事なんだと思う。前向きな気持ちでいますね」。
ハク。の2022年のミニ・アルバム『若者日記』(SPACE SHOWER)
河野圭の関わった近年の作品を一部紹介。
左から、絢香の2023年作『Funtale』(A stAtion)、佐藤千亜妃の2021年作『KOE』(ユニバーサル)、アイナ・ジ・エンドの2021年作『THE ZOMBIE』(avex trax)