時代も分野も超えて世界を結ぶ音楽の魔法はここにある――国際色豊かな顔ぶれと創造された新作『World Music Radio』が放つ多彩なサウンドのパワーと楽しさをキャッチしよう!
広がりや繋がりにある意義
ディズニー/ピクサー映画「ソウルフル・ワールド」(2020年)のエンド・ソング“It’s All Right”を担当して日本でも知られるようになったジョン・バティステ。その後アカデミー作曲賞にも輝く同曲の話題を導入に、絶好のタイミングでリリースされた2021年のアルバム『We Are』は、ルイジアナの音楽一家に生まれ育ってNYのジュリアード音楽院で学んだ彼のキャリアを横断しつつ、セカンドラインからジャズ、ソウル、ヒップホップなどを内包した豊かな音楽性をポップに提示する快作となっていた。が、彼が翌年の第64回グラミー賞にて最多の11部門でノミネートされ、最終的に主要部門の〈最優秀アルバム〉を含む5部門を制するに至っては、その名はさらに世界的なものとして広まったことだろう。

そんな彼のニュー・アルバムは『World Music Radio』と題されている。この明快なタイトルがある程度の内容を説明しているようにも思うが、資料によるとこれは宇宙の星間領域を舞台にしたコンセプト・アルバムで、〈ビリー・ボブ〉なるキャラクターがホストを務める宇宙のラジオ局から発信する形で、受け手は世界中を音で旅することができるのだという。そんなコンセプトに沿って、今回はさまざまな国や人種、ジャンルのゲストを迎え、さまざまな音を聴かせること自体に主眼が置かれているようだ。
そのテーマを補強する存在になったのが、コカ・コーラのフラッグシップ・プロモーション〈Coke STUDIO〉プログラムのリード・アンセムに選ばれた先行カット“Be Who You Are (Real Magic)”だ。ここでは英国レゲエの著名なヒット曲であるミュージカル・ユース“Pass The Dutchie”(82年)をポップに引用し、ドリームヴィル所属ラッパーのJIDに韓国発の人気グループであるNewJeans、コロンビアのカミーロという多国籍な顔ぶれが客演している(もちろん3つの言語が入り交じる)。前作もいわゆるジャンル横断的な持ち味を前に出していたわけだが、今回はそうした音×人のコラボレーションが縦軸にも横軸にも組み合わさって、(宇宙から?)俯瞰したかのように視野を広げて制作されている。今回はそうした広がりや繋がりそのものに表現の意義を求める格好で、幅広いアーティストたちとの録音が進められていったようだ。
コンセプトを超える楽しさ
導入の“Hello, Billy Bob”ではニューオーリンズのシャノン・パウエル(プリザヴェーション・ホール・ジャズ・バンド)がドラムを叩いているが、前作の基盤にあったNOLAらしさも今回はパレット上に置かれた色のひとつだ。2曲目のアーシーでスピリチュアルな“Rain Dance”ではジャスティン・ビーバーの“As Long As You Love Me”を引用しつつネイティヴ・アメリカン居住地で結成された音楽集団だというネイティヴ・ソウルをフィーチャー。同曲を共同プロデュースした売れっ子のジョン・ベリオンとピート・ナッピ、テンロックによるチームは、アルバムのポップな面に推進力を与えている。
スペインのジャズ・シンガー兼トロンボーン奏者であるリタ・パイエスを迎えたフォーキーな“My Heart”ではブラクストン・クックも参加。さらには宇宙的でパーカッシヴな“Worship”、ナイジェリアのファイアボーイDMLとジョン・ベリオンを交えたアフロビーツ“Drink Water”、メロディカも活躍するベッドルーム・ソウル“Calling Your Name”、滑らかな歌唱とピアノにNOLAの英雄リル・ウェインが絡む“Uneasy”(ウェインのギター・ソロも聴きもの)、ビートメイカーのテイデックスが援護する小気味良いディスコ“Call Now (504-305-8269)”、ベリオンとナッピが手掛けたソロ曲“Don’t Say Love”も記憶に新しいリー・アン(リトル・ミックス)を招いたホーリーでプライマルな“Running Away”……と大雑把に書き出してみただけでもその彩りは明白だ。
他にもピアノ弾き語りの“Butterfly”、カッサ・オーヴァーオールのビートに乗るニューウェイヴ的な“Boom For Real”も好ましく、ケニーGのサックスで送る“Clair De Lune”、シャソルの独壇場な“Chassol”らのインタールード的な登場もラジオのザッピング感覚を演出する。作品は終盤へ向かってトラディショナルな薫りを増していき、ニック・ウォーターハウスとのカントリー“Master Power”やサザン・ソウル風味の“Wherever You Are”を経て、ラナ・デル・レイとの美しいデュエット“Life Lesson”で雰囲気十分に幕を下ろす。
無造作に〈ワールド・ミュージック〉を掲げるアメリカらしさや現代的なバランスへの配慮などを感じつつも、実際に聴けばコラボが単なる目的に終わることもなく、豊かな成果が素直にアルバムを楽しませてくれる。それは企画意図や狙い以上に、主役のミュージシャンシップがそこに溢れているから。前作以上に親しみやすい必聴の傑作と言えそうだ。
『World Music Radio』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、JIDの2022年作『The Forever Story』(Dreamville/Interscope)、カミーロの2022年作『De Adentro Pa’ Afuera』(Sony US Latin)、NewJeansの2023年作『Get Up』(ADOR)、リタ・パイエス&エリザベト・ローマの2021年作『Como La Piel』(Pol Castellvi Payes)、ブラクストン・クックの2023年作『Who Are You When No One Is Watching?』(Nettwerk)
『World Music Radio』に参加したアーティストの関連作を一部紹介。
左から、ジョン・ベリオンの2018年作『Glory Sound Prep』(Capitol)、ファット・トニー&タイデックスの2020年作『Wake Up』(Carpark)、ケニーGの2021年作『New Standards』(Concord)、シャソルの2020年作『Ludi』(Tricatel)、アルドランドの2021年作『Deux』(Favorite)、カッサ・オーヴァーオールの2023年作『Animals』(Warp)
『World Music Radio』とジョンの周辺をさらにザッピングしてみると……
グラミーで〈最優秀アルバム〉を含む5部門に輝いた前作。NYとNOLAを繋ぎながら多彩なフィールドとの繋がりを無理なく視野に入れたガンボ的なサウンドは、それ自体がすでに〈WMR〉的な理想へ向かう意識の表れだった。

LANA DEL REY 『Did You Know That There’s A Tunnel Under Ocean Blvd』 Interscope/ユニバーサル(2023)
今回の〈WMR〉で終曲“Life Lesson”に客演した彼女の最新作にはジョンがピアノや歌で2曲に参加。大時代的なポピュラー/バラードに敬意を注ぐここでのラナの振る舞いを思えば決して意外な手合わせではない。

ヴィンテージなリズム&ブルースを探求する歌手/ギタリストの近作。以前の“Tell The Truth”に続き、ジョンとは〈WMR〉でも合体している。ジョンが参加したラナ・デル・レイ“Candy Necklace”も彼のプロデュースだ。
レマやクリス・ブラウン、エド・シーランも参加したこの快作で世界に名を広めたナイジェリア発のプレイボーイは、〈WMR〉で“Drink Water”に登場。そもそも現行アフロビーツの自然な折衷ぶり自体が〈WMR〉的ではある。

前作中の“Boy Hood”で地元のラップ・レジェンドにオマージュを捧げたジョンだけに、〈WMR〉の“Uneasy”にこのホット・ボーイを迎えたのは念願だったはず。同曲でのウェインはラップに加えてギター演奏でも貢献。

今回の〈WMR〉でジョンを支えるジョン・ベリオンは、直近ではジョナス兄弟らを手掛ける才人だが、代表作といえば“Holy”を含む本作だろう。こうしたメインストリーム作品の作り自体がそもそも〈WMR〉志向ではある。

説明不要の大御所ソングライターがジャンルを跨いで迎えた客人の多彩な組み合わせを試みたリーダー作で、コラボすること自体に意味があるという点は〈WMR〉的。“Sweet”ではペンタトニックスとジョンが共演している。

スティーヴ・ジョーダン制作でランドール・ブランブレットの楽曲を取り上げた、往年の名ソウル歌手の最新作。ジョン・メイヤーら多彩な面々と並んで、“Mess About It”にはレイ・パーカーJrとジョンが演奏に参加。

2018年の『Look Up Child』がクロスオーヴァーに成功したルイジアナ出身のCCMシンガー。マイク・エリゾンド制作でネオ・ソウル味もあるこの最新作では“Saint Ferdinand”にジョンがメロディカ演奏で参加している。

