
Lean On My Love
こんな時代にもまだ愛を信じていい――音楽を通じて本当の価値とは何かを問いかけるジョン・バティステが新作を完成。人と繋がる喜びを表現したコンシャスな〈ソーシャル・ミュージック〉が表現するものとは?
〈ソーシャル・ミュージック〉の真髄を伝える秀作
常に明確なコンセプトを立てたアルバムを出しているジョン・バティステ。ベートーヴェン名曲の再構築集から1年足らずで発表した新作『BIG MONEY』は、米南部にも照射したアメリカーナ的アプローチと共に人生の悲喜劇を通して再生と喜びを歌う。アンドラ・デイとの“LEAN ON MY LOVE”を筆頭に、50年代リズム&ブルース〜ロックンロール的な表題曲など大半はライヴ一発録りによるもので、不完全さも厭わず演奏時の空気を生々しくパッケージ。そんな古めかしいスタイルを気心の知れたノーIDとの共同作業で現代にフィットさせる妙技は、いまのジョンが持つ勢いと余裕あってのものだろう。ランディ・ニューマンを迎え、ニューオーリンズ育ちのピアノマン同士で演じたレイ・チャールズの“LONELY AVENUE”は、本作の着想源の開示であると共に原作者のドク・ポーマスへのオマージュであるようにも思える。愛や苦悩を弾き語るように歌うピアノ・バラードから、カントリー〜ブルーグラス路線の“PETRICOLE”、別人格のDJであるビリー・ボブ・ボー・ボブを登場させたロックステディの“ANGELS”まで、『World Music Radio』(2023年)に通じる多彩さで彼が謳う〈ソーシャル・ミュージック〉の真髄を改めて伝える秀作だ。 *林 剛
レジェンドの遺産を継承せんとする気概
溢れる才能で音楽界を登り詰めたジョン・バティステは、キャリア最初期からルーツ音楽を志向していたアーティストでもある。世界のポップスへ目を向けた『World Music Radio』とクラシック音楽にフォーカスした『Beethoven Blues』(2024年)を経て、改めてアメリカ音楽のルーツを掘り下げたのが今回のニュー・アルバム『BIG MONEY』だ。
ジャケット写真からしてBB・キングらブルースの偉人へのオマージュを感じさせ、アンドラ・デイと共演した“LEAN ON MY LOVE”ではスライ・ストーン風のアレンジによるメロウ・ソウルを披露する。表題曲では50〜60年代のリズム&ブルースを見事に再現しているし、ロック・ナンバー“PINNACLE”は海外に渡って咀嚼される前の〈ロックンロール〉の原液そのままのような熱量だ。ランディ・ニューマンを迎えての“LONELY AVENUE”はレイ・チャールズも歌ったスタンダード曲で、ピアノのみをバックにして噛み締めるように歌う様子は、レジェンドの遺産を継承していく気概さえ感じる。
盟友ノーIDがクレジットされた終曲“ANGELS”ではロックステディ/ルーツ・レゲエにトライしており、ザラついた感触は当時の音源さながらだ。そのような方向を掘り進めても傑作を届けてくれそうだし、今後の彼の眼の向く先に期待したい。 *池谷瑛子