藤井 風が、フジテレビ系ドラマ「いちばんすきな花」の主題歌として“花”を書き下ろした。藤井にとって“旅路”(2021年、テレビ朝日系ドラマ「にじいろカルテ」主題歌)以来となるドラマ主題歌は、ピアノ弾き語りによるアジアツアー、〈FIBAバスケットボールワールドカップ2023〉中継テーマソング“Workin’ Hard”のリリースなどを経た作品として、彼自身の現在のモードを鮮明に反映している。
そんな最新の藤井 風のモードを探る意味でも、新曲“花”を徹底的に紐解いた本稿は必読だ。ライターの蜂須賀ちなみによる、トラックとリリック、そして「いちばんすきな花」と共鳴する部分を分析した以下のテキストを、ぜひ熟読してほしい。 *Mikiki編集部
淡々としているが、どこか不安定
藤井 風が、ドラマ「いちばんすきな花」の主題歌として書き下ろした新曲“花”が気になってしょうがない。ドラマ「silent」のスタッフが再集結し制作した「いちばんすきな花」は、画作りから何から、とにかく透明感のある作品。そんな中、第1話の終盤で流れてきた“花”のイントロは、一匙のスパイスとして機能していた。
得田真裕の手掛ける本作の劇伴は、ピアノ、ストリングス、アコースティックギターがメインで、第1~2話の時点では、ゆったりとしたテンポの長調の楽曲のみ。対して、“花”はハ短調(Cマイナー)。ピアノ&ベースのユニゾンによる〈ドシラソファ〉というメロディー、短調ならではのミステリアスな響きに引きつけられたのはきっと私だけではないだろう。
〈ドシラソファ〉からシームレスに始まるピアノ&ベース&ドラムのリズムも印象的で、このリズムが曲全体を支配している。間奏でボーカルが〈タッタラッタッ〉と同じリズムを口ずさむ演出も極めて自然だ。アウトロの〈my flower’s here〉というコーラスも同じリズムである。しかしずっと同じパターンというわけではなく、微妙に変化していっているのがポイントだろう。ピアノが鳴らす和音の一番高い音は〈ド〉〈レ〉〈ミ〉〈ファ〉の4音の範囲で組み合わせが都度変化しているし、ベースラインも微妙に変化している。
また、打楽器にももちろん音高はあるから、スネア/キック/リムショットの位置の変化によって、全体の聴こえ方がまた変わってくる。様々な要素が絡み合いながら、〈同じものがずっと続いているようで、実は変化している〉という状態を作り出し、それが〈淡々としているが、どこか不安定〉という絶妙な印象に繋がっている。
ドラマ「いちばんすきな花」が描くのは人々の日常であり、大事件は特に起こらない。しかし彼らの日常は静かに、確かに動いているのだと“花”という楽曲が伝えてくれているように感じた。