その眼差しの先にあるのは、シティ・ポップが本来持っていた反骨心。活動15年を祝うカヴァー盤には、青春期から変わらぬ〈等身大〉の彼が浮かび上がる!
ベタすぎず、マニアックすぎず
信頼と実績のジャンク フジヤマ印。活動15年目の記念作となる初のカヴァー・アルバム『憧憬都市 City Pop Covers』はそう呼ぶに相応しい内容となった。先行シングルとして届けられた杏里“WINDY SUMMER”と大橋純子“テレフォン・ナンバー”のカヴァーを聴いた限りでは、〈王道のセレクションで攻めてくるのでは〉と占っていたものの、蓋を開けてみれば、広い間口を持ちながら彼ならではのこだわりが随所に垣間見える作りとなっており、凝った内装デザインも多々見受けられ、〈ほほう〉という声が何度も漏れてしまった。
「選曲はベタすぎず、かといってマニアックすぎず、ってことを心掛けましたね。まぁ僕ってどちらかと言えば、ポンタさん(ドラマーの村上“PONTA”秀一)をはじめ、多くのヴェテランに支えられながら豪華なシティ・ポップ・サウンドを奏でてきたアーティストというイメージがあると思うんですけど、それだけではない、現在40歳の〈等身大の僕〉の趣味嗜好も反映させたつもりです」。
彼は1983年生まれだから、だいたい90年代初頭から2000年代半ばあたりにかけての時期がちょうど思春期・青年期にあたる。だが、その頃にメインストリームだった音楽に共鳴することができず、ならば自分にとってリアルな響きとは?というテーマから過去への遡行を実施、いつしか時空を股にかけるトレジャー・ハンターとなって……といった彼の来歴を物語る選曲となっていながら同時に、音楽家としての核をしっかりと明示する役割を果たしているところがまた興味深い。
「シティ・ポップってバブリーなイメージがあるけど、そもそも僕はバブル景気を体験していない。そこはデカいですよ。なのにどうしてバブリーな音楽に魅入られていったのかというと、僕はね、〈歌〉の部分に理由があるんじゃないかと思うんです。歌い手が備え持つ〈幅〉に惹かれるというか。で、そういう幅を感じさせてくれる音楽家が、今回カヴァーした曲のオリジナルが生まれた時代にはたくさんいた。今回カヴァーしていませんが、山下達郎さんがサンシャイン60をモチーフにした曲(“SPACE CRUSH”)を書いていらっしゃるけど、当時の彼が感じたであろう驚異や興奮ってものは僕の世代には正直ピンとこない。だけど、池袋育ちの彼が目の前にそびえ立つビルを眺めながら何を考えていたのか――そんな彼の感情が間違いなくサウンドにも反映されていて、独特な色合いを生み出しているんです」。