活況続くUKインディーの着火点は、眼光鋭き無法者一家だった――5年の内省を経た2024年のFWFサウンドは、禁断の果実のごとく、妖しく毒々しい輝きを放っている!!
ファット・ホワイト・ファミリー(以下FWF)の帰還。5年の時を経てニュー・アルバム『Forgiveness Is Yours』と共に彼らが帰って来た。何が起こるかわからない危ういステージ・パフォーマンスと、ダウナーなサイケ・ガレージのサウンドで注目を集めていたFWF。シェイムやゴート・ガールがそのライヴを目撃し、活動を始めるきっかけになったという彼らは、ある意味で初期のウィンドミル・シーンの始祖たるバンドだったと言えるのかもしれない。
そんなバンドが前作『Serfs Up!』(2019年)以降の5年間で経験したこと――オリジナル・メンバーであり音楽面でもバンドのキャラクター面でも大きな役割を果たしていたソウル・アダムチェスキーが2度目の脱退。コロナ禍におけるロックダウンの最中に始まった、ヴォーカリストのリアス・サウディによる執筆活動。さらにサウディ兄弟の弟ネイサンは〈リアスとソウルの刺し違えを阻止してきた男がついにその影から抜け出すことを決意〉という謳い文句のもと、素晴らしいソロ・プロジェクト、ブライアン・デスティニーを開始。一方リアスはバンドと長年の付き合いがあるレーベル、トラッシュマウスの主宰者にしてFWFの新作でも共同プロデュースを務めたメイ兄弟とデシウスとしての活動を行い、アシッド・ハウスに影響を受けたかのような、これまた素晴らしいアルバムをリリース。ギタリストのアダム・ハマーはワームダッシャーで活動……などなど、とにかくこの5年間でいろいろなことがあった。
そのなかでもリアスの執筆活動が今回の新作に大きな影響を与えたようだ。リアスはこう語っている――結成以来、絶え間ない混沌に包まれていたFWFの歴史を振り返る回顧録「Ten Thousand Apologies」を、作家のアデル・ストライプと共に書き上げたことは、人生を変えるような体験だった。狂った環境の中にいた自分にはリセットが必要で、コロナ禍はリハビリのような時間を与えてくれた。そして書くことを通して、これまでの人生に向き合うことができたのだ、と。
みずからの内側にあるものを言葉で形にしようとするその姿勢はアルバムの端々から感じられる。T・S・エリオットの「荒地」がモチーフになったという、作品世界に引き込むオープニング“The Archivist”。そして、朗読のテープを早回ししたかのように言葉に溢れた凄まじい楽曲“Today You Become Man”では、リアスの兄が酔っ払うたびに話していたという幼少期の割礼の体験が歌われている。そのタイトルに目を引かれる“John Lennon”は現実感を伴った夢とも幻覚とも思えるような出来事を、厳かで心を不安に揺さぶる曲と合わせて表現。このアルバムは回顧録の延長線上にあるものだとリアスは言うが、そのイメージは現実を超え、まるで未来世界の神話のように聴こえてくる。
一方サウンド面ではネイサンの個性がこれまで以上に強く出ている。サックスやストリングス、フルート、シンセを使った、洒落っ気がありつつも毒々しく仄暗い沼に沈み込むようなサウンドは彼のソロでも見られた特徴で、実際に“Feed The Horse”はブライアン・デスティニーでも録音されている。宇宙時代の流行歌のような“What’s That You Say”、スペース・ディスコの暗い狂騒を思わせる“Work”へと続くアルバム後半のムードを決めているのは、ブライアン・デスティニーで才能を磨いたネイサンのセンスであることは間違いないだろう。
ソウルが脱退したことも関係しているのか、攻撃的な側面よりも内省的な楽曲が目立つ本作だが、FWFの内省はダウナーな毒々しさと共にある。円熟味を増したと共に、ズブズブと沈み込んでいくようなこの4作目は、心の底に渦巻く感情が溶け出たもののように感じられるのだ。音楽として外に出されたそれは空気と混じり、毒であるのと同時に救いや癒やしにもなりえるものへと姿を変える。暗く仄かに温かい沼のような、この毒々しく柔らかい音楽には抗いがたい魅力がある。
ファット・ホワイト・ファミリーやメンバーの過去作。
左から、ファット・ホワイト・ファミリーの2016年作『Songs For Our Mothers』(Without Consent)、2019年作『Serfs Up!』(Domino)、ブライアン・デスティニーの2022年作『Brians Got Talent』(Dash The Henge)、デシウスの2022年作『Decius Vol. 1』(The Leaf)、ワームダッシャーの2022年作『At The Hotspot』(Bella Union)
ファット・ホワイト・ファミリーやメンバーが参加した近年の作品を一部紹介。
左から、キング・カーンの2023年作『The Nature Of Things』(Ernest Jenning)、ジョン・ケイルの2023年作『Mercy』(Double Six/Domino)、 SCUDFMの2022年作『Innit』(Dash The Henge)