縁深い映画「小林さんちのメイドラゴン さみしがりやの竜」オープニング主題歌“涙のパレード”に込めた思いとは?

 人間とドラゴンの共生を描くホームコメディ「小林さんちのメイドラゴン」。これまで2期に渡ってTVアニメ化されてきた同作が、この6月に映画「小林さんちのメイドラゴン さみしがりやの竜」として劇場公開される。制作はTVアニメ版に続いて京都アニメーション。音楽も同じく続投で伊藤真澄。そして、オープニング・テーマも過去2作品を引き継いでfhánaが担当し、小林幸子によるエンディング曲とのスプリット・シングルとして『涙のパレード/僕たちの日々』がリリースされる。

佐藤純一「主題歌を担当することが決まったのは、『The Look of Life』(2024年)のレコーディングが始まる少し前ぐらい。アルバムとほぼ同時進行の制作だったので、ヤバイ×2みたいな感じでしたね(笑)。映画の中心となるカンナちゃんのエピソード自体はけっこうシリアスだしバトル要素も多いけど、そこに引っ張られず、明るく、楽しく、ドタバタ感のある、いままでの〈メイドラゴン〉らしい曲でお願いしたい、ってお話を最初にしていただきました」

fhána, 小林幸子 『涙のパレード/僕たちの日々』 ランティス(2025)

 TVアニメ版の主題歌となった“青空のラプソディ”(2017年)と“愛のシュプリーム!”(2021年)は、音楽的な挑戦という意味でも、大幅に認知度を上げたという意味でもfhánaのターニングポイントとなった楽曲だった。その方向性を継承した“涙のパレード”はよりBPMを上げたアップ・チューンで、ブラスにストリングスにハープと、賑やかな大所帯でスピーディーに駆け抜ける。

佐藤「“青空のラプソディ”のときは、J-Popでは人気があるけどアニソンではまだないもの――当時で言うと星野源の〈恋ダンス〉的なフィリー・ソウルのBPM速い版みたいな曲を作りたいっていうのがあったし、“愛のシュプリーム!”のときは、〈ヒプノシスマイク〉みたいにMCバトル系のラップはアニソン的なコンテンツにもあるけど、90年代的な、スチャダラパー風のラップはないからそれをアニソンに持ってきたらおもしろいかも、っていうのでやってみて。で、そのあとは覇権アニメの主題歌になったCreepy Nuts(「ダンダダン」の“オトノケ”)とかがあるなかで、『The Look of Life』ではめちゃめちゃ早口でテクニカルだけどポップな“city dream city”みたいに変わった作りの曲に挑戦もして、そこから王道の明るさのある“青空のラプソディ”の方向に戻ってきたのが、この“涙のパレード”。そんな流れになりますね」

 チャレンジの連続を経たうえで、途轍もなく晴れやかな仕上がりとなった“涙のパレード”。だが、華やかであればあるほど刹那的な感傷が込み上げるという、相反するエモーションの込め方がなんとも彼ららしい。

佐藤「歌詞の世界観で言えば、いままでの〈メイドラゴン〉ってちょっと社会的な側面があったと思うんですよね。ドラゴンと人間で種族が違って、同じドラゴンのなかでも派閥が違う。本来は交わらない人たちが、一緒に暮らしてるうちに何となくコミュニティが出来上がってくみたいな、そういうテーマが〈メイドラゴン〉にはあると思っていて、“青空のラプソディ”と“愛のシュプリーム!”はその方向で歌詞が書かれてるんですね。〈世界と私〉というか。それに対して今回の〈さみしがりやの竜〉は、もっとパーソナルなんですよね。カンナちゃんの個人的な悩みが作品の芯なのかなと思ったので、“涙のパレード”でもその芯にちゃんと触れつつ、fhánaがこれまで描いてきたテーマ性とうまく混ざればいいなと。別に合わせたわけじゃないけど、ちょうど同時進行で作っていた『The Look of Life』も神様目線から日常に目を向けた作品だったので、そういうタイミングなのかな、って思いながら作っていたところはありますね」

towana「脚本を読むと、カンナちゃんの〈涙〉がポイントになってるんですよね。

 曲名も歌詞も、たぶん、作詞した林(英樹)さんはそこから汲み取ったんじゃないかな。映画のその場面を思い出すだけで泣けるから、この曲を歌うときもそことリンクしちゃって泣きそうになるかも、こんな明るい曲なのに。ハチャメチャに楽しいけど切ない、そういう感情を共有できる人なら、歌詞や音に触れる前にもう曲名だけでこのニュアンスを感じ取っちゃうかもしれない」

kevin mitsunaga「“涙のパレード”って確かにちょっと相反するワードだよね、『にこにこぷん』じゃないけど。でも、そこは別に意図したわけではなくて、そうなっちゃうんだと思う。僕は、中学生ぐらいから自分の中の〈いい曲〉の基準がそういうものなんですよ。普通にメジャーな曲なんだけどなんか泣ける要素がちょくちょく入ってる、みたいな曲ばっか聴いてきたから。あと、〈涙〉でいうと、towanaさんから〈涙がポロッと落ちるような音を入れられないか〉って提案があって、そういう音を作ってサビ前に入れたりしたんで、〈涙〉っていうワードからアレンジが変わったんですよね」

towana「映画館で流れるIMAXの宣伝映像わかりますか? ピンが落ちるときのキーンっていうクリアな音。ああいうのを入れるのどう?って話をしたら入れてくれました」

kevin「そのほかにも装飾的な音を入れてるんですけど、過去2曲と同じような楽器を意図的に使って、ちょっと地続き感を出していて。鐘の音……チューブラーベルかな、その音をはじめ、楽器の構成が近いことで〈メイドラゴン〉っぽさも感じてもらえたらいいなと」

 ちなみに、今回も“青空のラプソディ”“愛のシュプリーム!”と同じく長回しのダンスMVを制作しているそう。towanaが単独参加した6月初旬のジャカルタでのイベントでも初披露済みで、その際、彼女はこの曲の可能性について手応えを感じたようだ。

towana「もう必死でしたけど、サビのところだけ振り付けをやったら、2サビぐらいからはお客さんも一緒にやってくれて。今後はライヴでも欠かせない曲になっていくなっていう感覚がそこで掴めました」

佐藤「夏には〈アニサマ〉にも出演しますけど、あの規模のステージでやってみて初めてわかることがあるかもしれない。“青空のラプソディ”も“愛のシュプリーム!”も、爆発的に広がったきっかけのひとつが〈アニサマ〉だったので。来年には結成15周年も控えているので、そこに向けての企画もいろいろと考えていきたいです」

6月27日にリリースされるサントラ『映画『小林さんちのメイドラゴン さみしがりやの竜』全曲集』(ランティス)

fhánaの近作。
左から、2023年のベスト盤『THERE IS THE LIGHT』(ランティス)、2024年作『The Look of Life』(コロムビア)

「小林さんちのメイドラゴン」シリーズのオープニング主題歌となったfhánaのシングル。
左から、2017年の“青空のラプソディ”、2021年の“愛のシュプリーム!”(共にランティス)