和洋折衷な個性と多彩なコード進行の魅力を忠実に味わえる楽譜集

 本楽譜集には、メロディと歌詞とコードだけが書かれた〈メロディ〉いわゆるCメロ譜の他に、ピアノ弾き語り向けの〈ヴォーカル&ピアノ〉、ピアノでメロディも弾くスタイルの〈ピアノ・ソロ〉、合唱向けの〈混声三部合唱〉という3つのアレンジが掲載されています。最初の3つはオリジナルキーのGメジャーですが、合唱向けだけは混声三部合唱の音域で主旋律を歌うことを考慮したE♭メジャーでアレンジされています。アベタカヒロ氏のアレンジは原曲に忠実に過不足なく再現されているところに好感を持ちました。

米津玄師 『NHK出版オリジナル楽譜シリーズ 連続テレビ小説 虎に翼 さよーならまたいつか!』 NHK出版(2024)

 楽曲構成は、4小節のイントロに続きA、本サビかと見まがうほどつかみのあるB、そして本サビC、そこまでを繰り返し2番を経て終盤にAとCの混合発展形といえるDという形になっています。

 米津玄師氏の歌い方には、愛情深さと淡々とした二律背反的な魅力を感じます。本曲では細かい音符を引っかけるようなリズミックな歌い方になっていたり、コードが多彩で情感にあふれている割にはテンポが速め、バックトラックも弦楽を含め歯切れ良いことも淡々とした印象につながっているのでしょう。

 これまでも常々感じていたのですが、米津氏のメロディにはどことなく邦楽/和風テイストがあり、本曲でも1Aと1A’の3小節目〈おとなになった〉〈かなしみにくれた〉のあたりに民謡/祭り囃子のようなニュアンスが見られます。

 一方で1Bの〈いつのまにか〉〈はながおちた〉のメロディはコードのアルペジオ下降になっていて器楽的であったり、1Bメロ終わりの順次進行解決フレーズに西洋音楽センスが見られます。過去にも“パプリカ”や“Lemon”など和洋折衷さが際立つ曲があり、そのバランス感が米津氏の個性と完成度を高めているように思います。

 本曲の中で特徴的なのはCの6小節目〈ちがにじんで〉のところが4度#からのIIm7(♭5)-V7、続く〈そらにつばをはく〉での4度マイナーコードCm7(9)への転調感がカッコよく、メロディもブルージーで声もシャウト気味、グッと痛みを感じさせる部分です。

 そのコード進行は終盤D、D’にも出てきますが、最後はトニックGに戻らずサブドミナントC△7であっさりフィニッシュ!

 TVドラマOPでは、昭和初期のファッションをイラスト化したようなモダンな踊り画像と相まって、苦悩の中の幸福感といった心情が表出し、和風ポップな印象を醸し出していますね。