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現実の問題について考えることを妨げないポップ――ジョン・ケイルの驚くべき新作

 ジョン・ケイルという音楽家は、現代音楽を出自とし、ラモンテ・ヤングの永久音楽劇場のメンバーとなり、そして、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの初期2枚のアルバムに参加し、アヴァンギャルドな要素をロックに導入した。それは、テリー・ライリーとの共作になる『Church of Anthrax』のような、ミニマル・ロック・ミュージック作品としても結実した。また、ストゥージズやパティ・スミス、ニコ、ジョナサン・リッチマンのモダーン・ラヴァーズ、スクイーズ、ハッピー・マンデーズらのアルバムのプロデューサーであり、さらには盟友ルー・リードやブライアン・イーノとのコラボレーションなど、多岐にわたる経歴を持っている。もちろん、ソロ・アーティストとしても、1970年代から現在にいたるまで、アルバムごとの振れ幅はあるにせよ、一貫して、メロディ・メーカーとして、ヴォーカリストとして、そして実験的ポップ・ミュージックとしての魅力を持っている。現在まで、同時代の音楽状況においても色褪せることのない作品を作り続けている稀有なアーティストである。

JOHN CALE 『POPtical Illusion』 Domino/BEAT(2024)

 御歳82歳になるケイルであるが、アルバム『MERCY』が昨年発表されたばかりだと思っていたのに、早くも新作が届けられるとは、その創作意欲は衰えるところを知らないかのようだ。しかも、それが70年代のアイランドから発表された、傑作3部作に匹敵するポップ・アルバムであるのだから驚くべきことである。その最新アルバム『POPtical Illusion』は、タイトルでも強調されているように、いつになくポップだ。そして、同時にそこに含意されているように、ポリティカルな主張を持ったものでもある。しかし、それはけしてポップであることを妨げはしないし、それが現実の問題について考えることを妨げもしないのだ。本作では、アニマル・コレクティヴやローレル・ヘイローといったアーティストと共鳴していることも特筆すべきだろう。それは、パンデミックという、地球規模の災害を契機としながらも、あらゆる感情の発露が、抑制されたポップ・ミュージックとして昇華された、とんでもない傑作である。