ジョン・ケイルの来日公演が8月6日(土)~8日(日)にブルーノート東京で開催される。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの創立メンバーとして脚光を浴びたのち、ソロへと転向して今日までに多数のアルバムを発表。プロデューサーとしても活躍するほか、ルー・リードとの『Songs For Drella』(90年)、ブライアン・イーノとの『Wrong Way Up』(90年)といった共演作や、「バスキア」(96年)や「アメリカン・サイコ」(2000年)など映画音楽の人気も高い。現代音楽をルーツに持ちながらソングライターとしての資質にも秀でており、70年代のパンク・シーンから2000年代のブルックリン・インディーに至るまでNYの音楽家に絶大な影響を与え続けている。さらに、近年も活発な動きを見せており、今回の公演は〈いまのジョン・ケイル〉を確かめる格好のチャンスだ。そこで今回は音楽評論家の岡村詩野氏に、ジョン・ケイルの歩みとライヴの見どころを解説してもらった。 *Mikiki編集部

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現代の息吹のなかで自身の活動を活性化

2013年10月にルー・リードがこの世を去った直後、ジョン・ケイルが自身のFacebookで〈世界は優れたソングライターで詩人を失った。私は学生時代の友人を失った〉とコメントを発表したことは記憶に新しい。ヴェルヴェット・アンダーグラウンド(以下、ヴェルヴェッツ)時代に袂を分かって以来、一時的にアンディ・ウォーホルに捧げられたアルバム『Songs For Drella』(90年)やヴェルヴェッツ再編などで合流したことはあったものの、決して良好な関係ではない、しこりは残り続けている、などの噂が尽きなかった2人。しかしながら、ルーを失った時のジョンの落胆ぶりは相当だったという。今年4月には、ヴェルヴェッツの結成に大きな影響を及ぼした現代音楽家のトニー・コンラッドも鬼籍に入った。いわんや、共に同じ時代をサヴァイヴしてきたデヴィッド・ボウイの逝去が与えた哀しみは言うに及ばないことだろう。

ルー・リード&ジョン・ケイルの90年作『Songs For Drella』収録曲“Style It Takes”
 

だが、今年74歳を迎えたジョン・ケイルは、そうしたいくつもの哀しみを抱えながらも精力的に活動をしている。今年1月には、自身の82年作『Music For A New Society』のリマスター盤を、同作を再構築したアルバム『M:Fans』との2枚組でリリース。さらに今年4月には、パリのコンサート・ホールのフィルハーモニー・ド・パリ(Philharmonie de Paris)でヴェルヴェッツの初作『The Velvet Underground & Nico』の全曲再現ライヴを実施……と、過去の作品を見直すような試みが続いている。しかしながら、その再現ライヴにはアニマル・コレクティヴリバティーンズのメンバーがゲストで登場していたし(ライヴ映像はこちら)、アニマル・コレクティヴの最新作『Painting With』(2016年)にはジョンが参加していた。ただ過去のキャリアを総括するだけではなく、後輩世代のアーティストと交流しながら、現代の息吹のなかで自身の活動を活性化させている点は見逃せない。

ジョン・ケイルの82年作『Music For Society』のリイシュー盤ボーナスCD『M:Fans』収録曲“Close Watch”
 
アニマル・コレクティヴの2016年作『Painting With』収録曲、ジョン・ケイルが参加した“Hocus Pocus”
 

そういえば、かつてジョンとケヴィン・エアーズニコと共にコラボ・ライヴ・アルバム『June 1, 1974』(74年)を発表したブライアン・イーノは、リリースされたばかりの自身の最新作『The Ship』でヴェルヴェッツの“I’m Set Free”をカヴァーしていた。ジョン・ケイルとブライアン・イーノ――もしかすると、この2人は亡き友たちのぶんまで絶えず制作に向き合い、次世代にその遺志を繋ごうとしている、数少ないエッジーなアーティストなのかもしれない。

ブライアン・イーノの2016年作『The Ship』収録曲“Fickle Sun (iii) I’m Set Free”
 

そんなジョン・ケイルが、間もなく久々の来日公演を実現させる。ギターにダスティン・ボイヤー、ベースにジョーイ・マランバという近年のジョンの活動を支えているメンバーに加え、フライング・ロータスとも共演経験のあるエレクトロニカ系アーティストのディーントーニ・パークスがドラマーとして参加することがアナウンスされた。ジョンはもちろんヴォーカル、鍵盤、ヴィオラ、ギターを担当。バンド編成でどのようなパフォーマンスを見せてくれるのかに期待が高まる。