完璧に確立された世界観
満を持して今年3月にリリースされたファースト・アルバム『TYLA』も同様に、セクシャルかつ官能的な内容だが気品に溢れている。アマピアノというジャンルやキーワードをきっかけに、彼女の音楽に触れた人も多いだろう。ここ数年、南アフリカ発のクラブ・ミュージックとして注目を浴びるアマピアノを取り入れつつ、だがタイラのサウンドはアマピアノのど真ん中というわけではなく、もっとポップ寄り。それゆえにポッピアノと呼ばれたり、アフロビーツやR&Bに近い曲調も少なくない。そこにログドラムのベースラインが小気味良く、絶妙なタイミングで挟み込まれる。アリアナ・グランデを彷彿とさせるヴォーカルを聴かせる“Butterflies”のような楽曲もあり、R&Bとして聴いてもまったく違和感はないはずだ。
アルバム『TYLA』のサウンド構成や統一感は、デビュー作とは思えぬほど完璧で、独自の世界観が確立されている。筆者はエリカ・バドゥのデビュー・アルバム『Baduizm』(97年)を思い出したが、あれくらい強烈な異世界、別世界が広がっている。ハマればハマるほど心地よく、それこそ深海のごとく、どんどん深みへと引き込まれる。共演者として、ナイジェリア出身の女性シンガーであるテムズや、ラテン・ポップ・シンガーのベッキーG、アメリカ人ラッパーのガンナや、ジャマイカ人のダンスホールDJ/ラッパーのスキリベンらも顔を覗かせるが、あくまでも主役は彼女。タイラの艶かしい歌とサウンドに翻弄される。
“Water”をはじめアルバム収録曲の大半のプロデュースを手掛けたサミー・ソーソは、カリ・ウチスやウィズキッドと仕事をしてきたナイジェリア系イギリス人。タイラの南アフリカ人というアイデンティティをしっかり打ち出しつつも、グローバルなポップ・テイストがあちこちに散りばめられている。〈アフリカ〉と聞くとプリミティヴでカラフルなイメージや先入観をついつい抱いてしまいがちだが、タイラのサウンドは艶かしく洗練されているのが特徴だ。ダンスにしても、彼女のダンスは腰を突き出すスタイルではあるけれど、トゥワークほど過激ではなく、バカルディと呼ばれる、軽妙でしなやかな新タイプの話題のダンス。シャイな日本人にも受け入れられ易いのではないかと思う。
