​​​​​​TM NETWORKが、1990年代にTMN名義で発表した2枚のアルバム『RHYTHM RED』『EXPO』のアナログ盤を2024年8月21日にリリースした。

“Get Wild”をはじめとした名曲を多数生み出していたTM NETWORKは、1990年にユニットの名義をTMNに変更。時代の変化とともに、彼らもまたそれまでのTM NETWORK像を自分達の手によって更新しようとしたのだった。

今回、初めてアナログ化された『RHYTHM RED』『EXPO』の特性や制作背景などについて、ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)に解説してもらった。 *Mikiki編集部


 

ハードなサウンドとなった『RHYTHM RED』

TM NETWORKがTMN期にリリースした名盤アルバム『RHYTHM RED』と『EXPO』は、レコードからCDへ音楽フォーマットが移り替わった1990年〜1991年にリリースされた作品だ。TM史に名を残す傑作でありながらも、アナログとデジタル時代の狭間だったことにより、CD・カセット・MDによるリリースはありながら、この2枚はアナログレコードとして発売されることはなかった。

なので、令和時代=今回の突然のレコード化には驚かされた。

なぜならば、TMN期のレコーディングでは当時先駆的すぎたハードディスクレコーディングを採用していたからだ。現在で言うPro ToolsのようなDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)を先取りした機材=シンクラヴィア(当時約1億円とも言われていた電子機材)を活用することで、CDには記憶できない音域である100kHzのサンプリングレートでデータが作られた。1980年代後半~1990年代初めという時代背景から考えれば、まさに未来のレコーディングである。

​​​​​​TM NETWORK 『RHYTHM RED​​​​​​<完全生産限定盤/カラーヴァイナル>』 Sony Music Direct(2024)

こうした特殊な録音方法を簡単に説明するならば、レコ―ディングしたサウンドをデータで取り込むことによって、俯瞰の視点で自由にエディットが可能ということだ。

しかしながら、当時主流だったCD収録に対応できるサンプリング周波数が44.1kHzまでだったため、小室哲哉いわく、CDでの商品化の際はフォーマットに合わせて44.1kHzへと〈あえて劣化させた〉というのだ。こうした手法は、リスナーを大いに驚かせた。

テクノロジーの可能性をわかりやすくプレゼンテーションして、未来に夢を与えてくれる。それこそがTMらしさなのである。

そもそも『RHYTHM RED』は、従来のTM NETWEORKのイメージから一変したアルバムである。タイトル通り、〈リズムが限界を超えてレッドゾーンへ飛び込む〉ことを意識し、ツーバスのドラムとディストーションギター=ハードロック/ヘヴィメタルによる快楽ポイントを取り入れ、1970年代=オルガン、1980年代=シンセサイザー、1990年代=シンクラヴィアというコラージュを試みた作品だ。〈レッドゾーン〉を〈世紀末/世界情勢〉というワードに置き変えると、ベルリンの壁が崩壊へと至った時代背景とあわせて、この音像が生まれた理由がわかるかもしれない。

1980年代、LAやロンドンなど海外レコーディングが続いていたTM NETWORKだったが、TMN時代のレコーディングは国内、一口坂スタジオ(“THE POINT OF LOVERS’ NIGHT”のみTOKYO FUN)で行われ、当時デュラン・デュランのギタリストだったウォーレン・ククルロや、ナイト・レンジャーのギタリストであるブラッド・ギルス、ハンブル・パイのクレム・クレムソンが参加したことは音楽ファンの間でも話題となった。

そもそも、CDでは完全なバージョンを聴くことができなかったシンクラヴィアを活用した高音質サウンドとは? 果たして、現場=スタジオではどんな音で聴こえていたのか? 当時筆者は、音楽誌のインタビュー記事のテキストから妄想するしかなかったのである。

『RHYTHM RED』と『EXPO』のアナログ化には、ソニーミュージックがデジタルでアーカイブしていたTDマスターが使用されている。CD音質を超えた、レコードクオリティが楽しめることの裏付けだ。TMN期に残された2枚のアルバムのアナログ化は、もしかしたらタイムカプセルの如く、TM NETWORKからFANKS(TM NETWORKファンの総称)へ向けられた時空を越えた高音質なギフトなのかもしれない。