ミュージシャン/ライターのKotetsu ShoichiroがCDにまつわるあれこれを執筆し、CD復古を目指す連載〈CD再生委員会〉。今回のテーマは、満を持して8cm CDです。「8cmCDで聴く、平成J-POPディスクガイド」のような書籍も刊行され、〈平成レトロ〉のアイテムとしてじわじわ注目を集めている8cm CD。七夕の〈短冊CDの日 2025〉開催も迫るなか、「短冊CDディスクガイド」を著したミュージシャン/DJのディスク百合おんさん、CDプレスサービス〈プレスミー〉の代表きだりょうすけさんに取材し、2人の言葉から小さな円盤の魅力に迫ります。 *Mikiki編集部
忘れ去られし8cm CDは90年代の置き土産
日本再生よりもCD再生の道を歩むこの連載でございます。今回は8cm CDシングルの話であります。
〈8cm CDシングル〉とは、その名の通り直径8cmの小さなCDでリリースされたシングル作品でございます。今ではあまり見かけなくなりましたが、1990年代の日本の音楽シーンではポピュラーなフォーマットだったんですよ。
ドリカムにミスチルにサザンといった国民的人気バンドはもちろん、安室奈美恵や槇原敬之といったソロシンガー、GLAYやLUNA SEAといったロックバンドやヴィジュアル系、広末涼子からSMAPまでのアイドル・タレント歌手、それから“だんご3兄弟”や“めざせポケモンマスター”のようなアニメ・キッズ系などなど、90年代を彩ったアーティストたちの8cm CDシングル。アラフォー世代なら誰でも、思い出の8cm CDが一枚くらいはあるでしょう。
ちなみに、世界最初の8cm CDは1987年にリリースされたフランク・ザッパの“Peaches En Regalia”。J-POPのフォーマットという印象が強すぎる8cm CDなので、奇才ザッパの名が出てくることに怯みますが……。8cm CDで聴くアバンギャルドポップという点では、Corneliusの『Nova Musicha』シリーズなどもありましたね。あ、小沢健二も8cmシングルにはこだわりがあり、多数のアルバム未収録曲が8cmシングルでリリースされていますよね。
8cm CDはサイズの分、記録容量も小さく、シングルも収録曲数は2~3曲ほどが一般的。当時のカラオケ文化の盛り上がりと連動して、タイトル曲とそのカラオケバージョン、という収録内容の作品も多いですね。
ケースも縦長の細いスリムな形で、この形をして〈短冊CD〉〈短冊シングル〉などとも呼ばれていました。今見るとちょっとレトロかつ、その駄菓子感覚がかわいらしいかもしれません。ただし、薄いコート紙とプラスチックで構成されたケースは保存が難しく、中古ショップに並ぶ当時のアイテムは、ボロボロに傷んだものも多いのが現状。また、2000年代に入ると、レコード店の売り場面積~陳列棚の変化や〈マキシシングル〉と呼ばれる、12cm CDによるシングル(カラオケバージョン以外にも、新曲やリミックス、アルバム曲の別バージョンなどを収録した〈シングルとしては大容量〉という、これまた時代の端境期を感じるアイテム)形態の主流化などによって、8cm CDはあっという間に廃れてしまいます。
90年代の音楽メディアで最も愛された存在でありながら、時代の中で忘れられた8cm CD。ボロボロのパッケージとともに、時空のかなたのおもちゃ箱に、テレホンカードやポケベル、たまごっち、〈たれぱんだ〉のケータイストラップなどとともに放り込まれております。
しかし、そんな8cm CD=短冊シングルに光を当てる男たちが居ます。CDを収集しつつそれでDJも行い、ついには「短冊CDディスクガイド」という本を発売したディスク百合おん氏。インディーアーティストのためにCDプレスを手掛け、販促イベント〈短冊CDの日〉を仕掛けるプレスミー代表きだりょうすけ氏。今回はこの両名に、8cm CDへの思いの丈を熱く語っていただきました。回していくぜ!