何者かになるために――会社員と音楽活動の両立で注目を集める気鋭のバンドがメジャー・デビュー! 迷いながらも5人が模索するサステナブルな理想とは?

このままでいいんだろうか?

 20代半ばに差し掛かった頃。まだ何者にもなれてない自分に気づき、葛藤や迷いを抱えながら、それでも〈まだやれる、まだ間に合うはずだ〉と未来の自分に期待する――5人組バンド、(夜と)SAMPOのメジャー・ファースト・アルバム『モンスター』に描かれているのは、大人になってから訪れる〈アイデンティティ〉を巡る物語だ。

(夜と)SAMPO 『モンスター』 ワーナー(2024)

 「クオーター・ライフ・クライシス(註:20代半ばから30代前半の時期に、人生や生き方に漠然とした不安や焦りを感じる心理的危機状態)という言葉があって。僕自身もそうなったんですよね」と苦笑しながら語るのは、バンドのリーダー的な存在である吉野エクスプロージョン。かつてハンブレッダーズのギタリストとしてキャリアをスタートさせた彼は2019年にバンドを脱退。一度は会社員として生きる道を選んだものの、「いきなり暇になって、空虚な日々を送っているうちに、すぐ〈バンドをやりたい〉と思いました」という。

 「それまでは週末に必ずライヴをやっていて、金曜日の夜中に車で移動して……みたいな生活を送っていましたからね。それが急に全部なくなって、何も予定がない休日ができると、〈このままでいいんだろうか?〉と不安になった。そこがこのバンドのスタートだったかもしれませんね」。

吉野エクスプロージョン(ギター)
2009年にハンブレッダーズを結成、正式メンバーとしては2019年まで在籍

 どうしてもバンドをやりたい、でも、バンドマン人生にすべてを賭けるのはリスクが高すぎる。そんな迷いのなかで出た答えが、会社員のままバンドをやるということだった。吉野と共に(夜と)SAMPOを結成した、なかのいくみ(ヴォーカル)、清水昂太朗(キーボード)、加藤秋人(ベース)、寺岡純二(ドラムス)は全員が会社員。そのメリットについて吉野は「経済的なこともそうですけど、精神的な安定が大きい」と語る。

 「バンドってコスパが良くないし(笑)、売れない時期が続くとどうしてもしんどくなるじゃないですか。そういうときに自分の居場所がいくつかあるのはいいことだと思うんですよね。片方がしんどくなっても、もう一つの場所があるということが救いになるというか。逆に場所が一つだけだと〈これが上手くいかなくなったらどうしよう〉と思ってしまうし、他人に認められることだけを意識し過ぎてしまったり、本質と離れたことをやりはじめてしまう気がして。〈音楽だけやってたら、もっと幸せだったのかも〉と思うことも正直ありますが(笑)、いまのところは上手くいってるんじゃないかと思います」。