(夜と)SAMPOが、本日8月28日にメジャー1stアルバム『モンスター』をリリースした。それぞれ出自も趣味も異なる会社員5人が生み出した本作は、ありふれた日常の中のワンシーンを切り取ったものもあれば、衝動的な感情、季節や人生観について書かれたナンバーもある。バンドの名詞代わりとなる作品でありながら、一つの到達点に達したアルバムだ。

そんな誰もに刺さるであろう『モンスター』について、吉野エクスプロージョン(ギター)、加藤秋人(ベース)に全11曲を解説してもらった。 *Mikiki編集部

(夜と)SAMPO 『モンスター』 ワーナー(2024)

 

1. モンスター

問題提起の曲である。このアルバムのコンセプトは〈まだ何者かになりたいと戦い続けるモンスターたちへ〉。どうやったら、満たされなくて叫ぶ〈けもの〉らしい部分から離れて、ニンゲンらしくあれるのか? これを考えるのが今作の本懐である。

まずはこの曲を通して、自分のこころの中にいる〈足りない何かに脅かされてる ないものねだるモンスター〉の輪郭をハッキリとさせることから始めていきたい。

そんなテーマに準えるべく、歌詞ではツラいニンゲンの心象を具体的にまとめてみた。1番Aメロでは、こう歌っている。

1日が有刺鉄線のよう
張り巡らされるのは小さな疎外感
瞬きは隠れ蓑の手合い
ギュッと張り詰めるものを殺して笑う

誰しもが少しは感じていることを、無理やり言語化してみる。それにより型抜きのように、パキパキと割れるこころの均衡からコチラを覗いてくる〈けものたち〉のことを考えられる。

またこの曲は、アルバムの1曲目として明確に作られた。件の〈問題提起〉的な歌詞もそうだし、曲の最後でドアを開け放つような演出、2分半の疾走感。サビらしいサビを入れることも考えたのだが、蛇足だと思ってやめた。ただ、ポップなメロディラインなので〈サビのあるバージョンも作りたいね〉という話になった。

それが、このアルバムの10曲目“ヒューマン”にもつながる。つまり表裏一体、“モンスター”からはじまり、“ヒューマン”でアルバムの幕が閉じられる、という構造につながっている(“革命前夜”が最後の曲である意味は、また後述する)。

極めて宇宙的で歪んだサウンドにより、こころの中の風景を描いている。シンセサイザーのトラック数もめちゃくちゃ多くなっているので、そのサウンドレイヤーの重厚さも味わっていただきたい。 *吉野

 

2. シャドウ

問題提起の後には、絶望を持ってきました。コレも明確に2曲目として作られた曲。どう感じられるかはわからないが、作り手としては、とても暗い曲だなと思う。この作品のデモを持ってきた時、清水(昂太朗/キーボード)から「大丈夫なん? 心配したわ」と言われた。大丈夫である。多分。

この曲は、自分のことというよりかは、何者にもなれないギャップに絶望する数多ものニンゲンたち(あるいは、けものたち)のことを思い浮かべながら作った。ただそれだけに、深い絶望の〈黒さ〉にあてられて、気持ちがしんどくなったのも事実。せめてサウンドだけはポップに、と思いシンセサウンドは明るい音色があてられている。

ウワモノ(ギターやシンセサイザーなど、ベーシックとなるリズム隊以外の楽器)は浮遊感のあるキラキラサウンド、これは“モンスター”の宇宙的なサウンドモードを引きずっている。それに反して、ベースドラムはゴリゴリでオルタナティブなプレイにしてほしいというオーダーをした。さながら、希望と絶望のどちらも描くかのように。

サビでは、このように歌っている。

右手に散弾銃 左手にジャックナイフ
きっとどちらも選べないのなら
不確かなまま 人生を閉じたい

コレはさまざまな解釈があっていいが、作り手としては、劇的なもの(つまり、けものが憧れる〈何者か〉らしさのこと)である散弾銃やジャックナイフ、それらを選べない自分の凡庸さへの絶望を描いている。自分で書いててツラくなってきたので、この辺で解説を終えるが、一度絶望することは何も悪くない。変わるためには。そんな気持ちで、この曲を作っています。頑張ろう。 *吉野

 

3. 春

開けるようなポップスを目指して作成。今まで自分で作ってこなかったような明るい曲調で、タイトルは単刀直入。春=雪解け・芽生え・日差しのようなポジティブさが強く謳われるイメージが強い季節だが、どうにも自分の中での春を振り返るとあまりいいイメージがなかった。

花粉症はもちろんのこと、新しく人に会うことに対して不安ばかり感じる性質の私にとっての春は、メランコリーな印象が強い季節だ。なので、おおよその春めきは曲調に背負ってもらい、歌詞を書く際には自分の中の春を重ねた。

編曲の大枠についてはポップスらしいコード進行に任せつつ、サビではメロディに対する流れとしてのハーモニーを採用していった結果、わかりやすくはないコード進行となった。すんなり解決しそうでしない感じの進行は、歌詞と一番近しい部分なのだろうと改めて感じた。 *加藤

 

4. プラズマクラシックミュージック

4曲目は、これまた明るい曲。なのだが、ある意味、つらい世の中からの現実逃避を描いている。

音楽には、ある種〈現実逃避〉の要素もあると思っている。音楽は実際に何か問題解決をしてくれるわけではない。だが、こころを楽にしてくれたり、肯定してくれたり、ただそばにいてくれるだけでいい。現実を超越した何らかの効果があるのかな、と思う。

そしてこの曲は、そのような音楽のマジックをパッケージにしている。1番サビを見てみる。

幻想だって最強さ
イマジナリーに銀河はある
自分の機嫌 取れたもん勝ち
プラズマクラシックミュージック

幻想といえば、この曲は夢の中でできた曲である。私は眠りが浅く、おまけによく夢をみるのだ。レム睡眠の最中、自分の脳みそが作曲をしてくれることがある。そのため厳密には、本楽曲の作詞作曲者のクレジットは、自分の名を書くべきではないのかもしれない。〈作詞作曲:脳みそ Of 吉野エクスプロージョン(in REM Sleep)〉とすべきなのかも。いや、あるいは吉野エクスプロージョンという人格をなしているのは、そもそも脳の神経伝達物質のやり取りなのだから、自分の名前のままでいいのか? そんなくだらないことを考える。

印税の行く先を自分の脳みそにすべきなのかは置いておいて、サビのメロディと、終わりに〈プラズマクラシックミュージック〉という言葉だけを残して私は夢から目を覚まし、すぐにボイスメモを録った。布団の擦れる音を含んだノイズが大半のソレを聞いても、改めてメロディと言葉のキャッチーさに惹かれて曲にしたのが、この曲のあらましである。

現実逃避でも何でもよくて、再び前を向けたなら、それは必要なプロセスなんじゃないか、と私は思います。 *吉野