(夜と)SAMPOがメジャー1stアルバム『モンスター』をリリースした。それぞれ出自も趣味も異なる会社員5人が生み出した本作は、バンド結成以降のさまざまな経験を詰め込んだ、一つの到達点に達したアルバムとして多くのリスナーを魅了している。

そんな『モンスター』をさらに深く知るため、各メンバーに〈(夜と)SAMPOを形成するアルバム〉をそれぞれ3枚ずつ選んでもらった。5人の選んだ作品が『モンスター』でどのように生かされているか、コメントとともにチェックしてみてほしい。 *Mikiki編集部

(夜と)SAMPO 『モンスター』 ワーナー(2024)

 

なかのいくみ(ボーカル)
選盤テーマ:歌の力は魔法の力

 

小沢健二『LIFE』

小沢健二 『LIFE』 東芝EMI(1994)

なるべくごきげんな自分でいたいけど、なかなか笑顔を保てない。そんなことありますよね。やんなっちゃいますよね。そんな時は、はい。オザケンです。特にこのアルバムは全ての曲において、生きる喜びが音にリズムに、歌声に体現されています。触発されないはずがありません。問答無用で元気になります。気がつけばお気に入りのスニーカーを履いて、街へ繰り出してしまいます。

 

JUDY AND MARY『WARP』

JUDY AND MARY 『WARP』 エピック(2001)

今も色褪せない完璧なバンドの、最後にふさわしいアルバム。YUKIちゃんのアイコニックな歌声が本当に素晴らしいです。本作ではこれまでの集大成とも言える、最高の歌声を発揮されたのではないかと思います。しなやかで、強く軽やかで、どこまでも自由な、まさに大地に響く歌。聴き手をどこへでも連れ出してくれる歌。たちまちキュートでポップな、〈大丈夫〉の魔法にかかってしまいます。

 

大森靖子『PINK』

大森靖子 『PINK』 PINK(2012)

インディーズ時代の手売りCDで出会いました。本当に衝撃の一作です。歌うことって、生身の人間の〈営み〉なんだなと改めて実感するアルバムです。孤独や憂い、やるせなさ、かなしみも怒りも全てまとめて、美しさに昇華することができるんだと知りました。人間って本当に不潔できたないんだけど、ぐちゃぐちゃなところも含めて、丸ごと愛しちゃうよね、ってことだと思います。

 

吉野エクスプロージョン(ギター)
選盤テーマ:『モンスター』ができるまで ~制作に影響を与えた名盤たち~

 

Mr.Children『IT’S A WONDERFUL WORLD』

Mr.Children 『IT’S A WONDERFUL WORLD』 トイズファクトリー(2002)

『モンスター』は、コンセプチュアルな作品にできるか?というテーマで創りあげた。特に“モンスター”(M1)から“ヒューマン”(M10)に“変身”(M9)をする、という構成を思いついたのは、このアルバムからの影響だ。序盤のM3“Dear wonderful world”とラストのM15“It’s a wonderful world”はベースとなる曲が一緒で、M3があっさりとしたインタールード的な楽曲であるのに対して、大きなコーラスを加えてサイズアップしたM15。この楽曲の間に描かれた、鬱屈とした世の中への批判や絶望を乗り越えて、それでも〈この世界は今日も美しい〉と表現するM15を聴くと、いつも涙が出る。

 

赤い公園『純情ランドセル』

赤い公園 『純情ランドセル』 ユニバーサル(2016)

とことんポップなのに、どこかヘンテコでひねくれている。1曲たりとも同じだな、と思ったことはない。ギタリストらしくないフレーズが、楽曲のエモーショナルさを加速している。この作品を聴いていると、音楽的バックグラウンドの幅広さを感じる、というよりは音楽への深い愛情を感じるのだ。(夜と)SAMPOを結成する際に、このようなアーティストを目指したいと思ったものだ。結局、その夢は叶わなくなってしまったが、前作『はだかの世界』では、M4“届かないラブレター”で当て書きしたバンド。あなた方の楽曲を、お守りにさせていただいています。

 

キング・クリムゾン『Red』

KING CRIMSON 『Red』 Island(1974)

キング・クリムゾンが好きです。不協和音や変拍子が大好きです。ポップスには適切な毒気が必要だと思っていて、(夜と)SAMPOのめざしたい姿には必要不可欠なもの。ポップなのになんかクセがあるんだよな~という曲を書く人にはそれぞれのバックボーンとして、ややマイナーな音楽ジャンルやマニアックな趣味嗜好が存在すると思う。僕にとってそれはプログレッシブロックで、高校生の自分を音楽沼に陥れたのもそれでございました。『モンスター』にもちょくちょく、減5度を突っ込んでいます。不協和を楽しもう。

 

加藤秋人(ベース)
選盤テーマ:ベーシストとしての加藤を形作った音楽

 

東京事変『娯楽』

東京事変 『娯楽』 ユニバーサル(2007)

中学2年の時にベースを始めた自分。弾き始めてしばらく経った頃、音楽チャンネルのパワープッシュで流れてきた“キラーチューン”のベースを聴いて、雷に打たれたかのような衝撃を受けた。

そこから数年、亀田(誠治)師匠のベースを耳コピしまくったり、バンドスコアを読みながらほかのパートを追いかけたりと、音源をとことん聴きこんだ。また、各メンバーがもともとスタジオミュージシャンということを知り、それからCDのクレジットを読んで参加しているミュージシャンをチェックするようになったのも東京事変の影響だった。

 

スティーリー・ダン『Aja』

STEELY DAN 『Aja』 ABC(1977)

高校2年の時、グルーヴについて探求するドラマーが後輩として入ってきた。その後輩といろんな音楽を聴いたりする中、特に気に入っていたのがスティーリー・ダンだった。“Peg”のメイキング映像を見つけてリック・マロッタ(ドラムス)の最高に心地よいハイハットやチャック・レイニー(ベース)の弾くベースラインの今まで聴いたことない音色、音符通り弾いただけじゃ真似できない独特なリズムを何度も聴いた。

今改めて聴いても、新しくわかる凄さが増していく。少しでも学んで自分の一部になってほしいと思う音楽である。

 

上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト『MOVE』

上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト 『MOVE』 ユニバーサル (2012)

大学に入ってジャズやフュージョンばっかり演奏する部活に入り、世で一番ポピュラーな4分の4拍子より5拍子だの7拍子だのを好き好んで演奏していた。そんな曲たちを練習する中で指針としていたのがアンソニー・ジャクソンのベースだった。どんな拍子やリズムでも絶対的な指針として存在するベースは、一体何をしているんだろうと思ってずっと聴いていた。このアルバムでは、メロディアスで繊細、しかし親しみやすさも兼ね備えた演奏を聴くことができる。大学時代、多くの曲をカバーしたが“Brand New Day”は特に大好きな曲だ。