汲めども尽きぬ創作意欲が生んだ、濃密なセッションの記録
汲めども尽きぬ創作意欲、とはこういうことを指すのだろう。トロントの3人組BADBADNOTGOODの新作は、音楽的志向の異なる3作のアルバムを1枚にコンパイルしたもの。インストゥルメンタルのジャズを基軸とする彼らだが、本作では、多くのミュージシャンを招き、1週間セッションを行ったそうだ。
参加したのは、フェリックス・フォックス=パパス(キーボード)、ケーリン・マーフィー(トランペット)、ファン・カルロス・メドラーノ・マガリャネス(パーカッション)、タイラー・ロット(ギター)といった面々。皆、トロントの音楽シーンで重責を担っているキーパーソンだ。楽器と楽器による濃密な音の対話/会話が行間から滲み出ている。
元々3作に分けられていた曲の内訳だが、それぞれに〈カオス〉〈秩序〉〈成長〉というキーワードが掲げられている。あえて分類するなら、こんな風に分けられるだろう。セッションの痕跡をあえて残したようなラフさと、各々のミュージシャンシップの高さが露わになっている曲(=カオス)。アンサンブルの厚みと安定感が際立つ、ジャズやフュージョンを参照したような曲(=秩序)。ゲストの参加によって、グループとしてのポテンシャルを最大限に引き出されたと思われる、彼らの今後を予見するような曲(=成長)。
ケンドリック・ラマー、タイラー・ザ・クリエイター、フランク・オーシャン、サンダーキャット、ダニエル・シーザー、カリ・ウチスなどに起用され、名実共にトップクラスのコレクティヴとなった彼らの現在地、そして、行く末を示したような重要作である。メロウなエレクトリック・ピアノも、ジャコ・パストリアスを連想させる饒舌なベースも、タイトで力感に富むドラムも、これまで以上の強度を備えている。今持っているクリエイティヴィティをすべて注ぎ込んだような音のスープ、具材のひとつひとつを噛み締めるように、ご賞味頂きたい。