TEARS DRY ON THEIR OWN
伝記映画「Back to Black エイミーのすべて」で改めて知る、エイミー・ワインハウスとその音楽
悲劇に終わらない物語
酸いも甘いも噛み分けたような気だるげでハスキーな歌声と、ポップだが退廃の匂いを感じさせるレトロかつ先鋭的な楽曲で人気を集め、世界的スターとなったエイミー・ワインハウス。デビュー10周年も迎えられぬまま2011年7月に27歳で早世した彼女の伝記映画「Back to Black エイミーのすべて」が日本でも公開となった。
エイミーの映画といえば、生前の本人映像を交えた2015年公開の『AMY エイミー』がよく知られている。ブレイク(・フィールダー・シビル)との交際/破局/結婚/離婚から、摂食障害、アルコールやドラッグへの依存によって破滅していく彼女の半生が赤裸々に描かれ、賛否を呼んだドキュメンタリーだ。しかし、サム・テイラー=ジョンソンの監督でマリサ・アベラがエイミー役を務める今回のバイオピックは、財団公認ゆえか、波乱に満ちた人生を描きつつも単なる悲劇に終わらせない愛の物語となっている。本作の脚本家が「エイミーの才能とカリスマ性を際立たせることを最優先した」と語るように、稀代のシンガー/ソングライターであったエイミーの音楽家としての側面に光を当てているのだ。ある意味でこれは自身のプライヴェートに基づいた『Back To Black』(2006年)の創作過程を再現したドキュメントだとも言え、美しい映像とともに、劇中で流される音楽に彼女のバックグラウンドやブレイクとの関係性を語らせているあたりが素晴らしい。
劇中で使用された楽曲は、ローリン・ヒル“Doo Wop (That Thing)”など一部の曲を除いて26曲がストーリーの流れに沿ってサウンドトラック(エクスパンデッド・エディション)に収録されている。うち12曲は、主に2003年のデビュー作と『Frank』と続く『Back To Black』に入っていたエイミー自身の曲(エイミーが客演したマーク・ロンソン“Valerie”のライヴ音源を含む)。ブレイクとの蜜月期を回想するシーンで流れる失恋テーマの“Back To Black”や第50回グラミー賞におけるロンドンからの生中継再現シーンで歌われる“Rehab”など、劇中で流れるエイミーの曲の多くは主演のマリサ・アベラによる歌唱版だとされるが、サントラに収録されているのはすべてエイミーのオリジナルだ。エイミーの音楽的故郷と言えるロンドンのカムデン・タウンにある〈ダブリン・キャッスル〉やソーホーの〈ロニー・スコッツ〉といったライヴハウスで歌われる曲も含め、映画でのマリサによる歌唱版を聴いてからエイミーのオリジナルを聴くと、本家に似せようとしたマリサの苦労も偲ばれる。