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英国の誇るブライテスト・ホープが甘美なサウンドと感動的な歌声で伸びやかに紡ぎ上げた、ありのままの愛の物語――年を越してもシーンを賑わせる至高の傑作がいよいよ日本上陸!

大躍進の2025年

 来る第68回グラミー賞にて〈最優秀新人〉部門にノミネートされているオリヴィア・ディーン。英国のアーティストでありながら、USでも高く評価されている様子はかつてエイミー・ワインハウスやアデルが大西洋を渡って支持された頃の姿を思い起こさせもする。そうでなくても、2025年9月にリリースされたセカンド・アルバム『The Art Of Loving』は初登場で全英1位を獲得するのみならず、全米5位を記録するなどいよいよ世界的なブレイク状況は整ってきたわけで、賞レースの行方はさておいてもここから彼女の快進撃が本格的になっていくことは間違いないだろう。

OLIVIA DEAN 『The Art Of Loving』 Capitol/ユニバーサル(2025)

 99年に生まれたオリヴィア・ローリン・ディーンは、ロンドンのハーリンゲイ区の出身。ジャマイカ系ガイアナ人の母と英国人の父を持ち、ミドルネームは母親が好きだったローリン・ヒルから取ったものだという。そんな両親の影響でソウル〜R&Bやレゲエなどの音楽に親しみ、幼少期から教会のクワイアで歌っていた彼女は、15歳の時に演劇を専攻して名門ブリット・スクールに進学。そこからピアノとギターを独学で習得し、本格的に曲作りをスタートしている。その後はルディメンタルのツアーにバック・コーラスとして参加し、19歳だった2018年に最初のシングル“Reason To Stay”をリリース。翌年にはAMFからファーストEP『OK Love You Bye』を出してキャリアを順調に滑り出していく。そこからもコンスタントに楽曲配信を重ね、2023年に晴れて届けたのがファースト・アルバム『Messy』だ。エレガントで温かいヴォーカルと繊細な表現、ルーツに根差した音楽性によって高く評価された同作の成功によってBBCの〈Sound Of 2024〉にもランクインした彼女は、期待を受けて2024年に〈コーチェラ〉や〈グラストンベリー〉といった大型フェスに出演。初来日も経験したこの年の配信曲“Time”ではザック・ナホームとの手合わせも果たしている。

 そして大躍進の2025年が訪れた。人気シリーズの最終作となる映画「ブリジット・ジョーンズの日記 サイテー最高な私の今」にザックと共作した“It Isn’t Perfect But It Might Be”を提供すると、アルバムからの先行カットとなる軽やかな“Nice To Each Other”が初のシングルTOP10入りとなる全英4位を記録。デュエット相手を務めたサム・フェンダー“Rein Me In”のヒットも挿みつつ、続く“Lady Lady”では馴染みのマット・ヘイルズ(アクアラング)に加えてリオン・マイケルズとも初めて手合わせしている。

 そして、その後に届いたのが、昂揚感に溢れたコーラスと軽やかなウォーキング・テンポで初めて全英1位をマークした“Man I Need”だ。ザックやトバイアス・ジェッソJrと共作したこの曲は欧州各国やニュージーランドなどでもNo.1を記録し、全米4位まで上昇。そうした上々の成果に後押しされて登場したのがこのたび日本盤がリリースされた『The Art Of Loving』である。

 

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隅々まで瑞々しい魅力

 多面的かつ多様な〈愛〉を表現したという今作が奏でるのは、オリヴィア自身のルーツを懐かしくも温かく反映したヴィンテージ色の濃いサウンドだ。アルバムに至るまでの流れを敷いてきたザック・ナホームがエグゼクティヴ・プロデュースを担当し、大半の楽曲プロデュースにもタッチ。過去作から続投するマット・ヘイルズやマックス・ウルフギャング、バスティアン・ランゲベックの出番もありつつ、ザックと共同制作する面々の顔ぶれはさらに豪華に幅を広げていて、アルバムから全英3位というダメ押しのヒットになったボサノヴァ風味の“So Easy (To Fall In Love)”などでは、サブリナ・カーペンターの大ブレイクに貢献したヒット請負人のジョン・ライアンとジュリアン・ブネッタ(テディ・スウィムズ“Lose Control”他)が登板している。オリヴィア自身とコライトに臨んだソングライター陣も超売れっ子のエイミー・アレンをはじめ、サー・ノーランやマイケル・スタッフォードなど従来とはカラーの異なるポップ職人たちが並んでいて、送り手の側から見た今回のアルバムがどのような位置付けなのかも窺い知れるだろう。

 もっとも、名だたるヒットメイカーたちと絡んでもオリヴィア自身のアーティスト性や楽曲の作風が大きく変わることはない。先述のシングル群それぞれが洗練されながらもナチュラルな表情で送り出されてきた通り、多彩な楽曲の集まったアルバムは全編で本人の瑞々しい魅力を提示してくる。

 明らかにエイミー・ワインハウスを想起させるスモーキーなレトロ・ソウル“Close Up”を聴かせたかと思えば、鍵盤が麗しいアレサ・フランクリン調のバラード“Let Alone The One You Love”も素晴らしい。他にも軽やかな浮遊感を湛えたアップ・ナンバー“Something Inbetween”や荘厳な奥行きを備えたアトモスフェリックな“Baby Steps”、ふとディアンジェロの姿がよぎるスロウの“A Couple Minutes”、そして“Just The Two Of Us”っぽい歌い口も興味深い本編ラストの“I’ve Seen It”……と、隅々まで好ましさで埋め尽くされた名盤だ。

 なお、日本盤には“Man I Need”など3曲のライヴ音源をボーナス収録。そのパフォーマンスを聴いてライヴでの姿にも触れてみたくなる人は多いはず。この春からワールド・ツアーで北米や欧州を巡るオリヴィアだが、いずれは再来日も実現してほしいものだ。

オリヴィア・ディーンが参加した作品を一部紹介。
左から、ルディメンタルの2019年作『Toast To Our Differences』(Asylum)、ロイル・カーナーの2022年作『Hugo』(EMI)、サム・フェンダーの2025年作『People Watching(Deluxe Edition)』(Polydor)

左から、アクアラングの2022年作『Dead Letters』(Okey-Donkey)、エル・マイケルズ・アフェアの2025年作『24 Hr Sports』(Big Crown)

 

オリヴィア・ディーンの音楽と『The Art Of Loving』に繋がるさまざまな作品

OLIVIA DEAN 『Messy』 EMI(2023)

マット・ヘイルズを中心にトレ・ジャン=マリーらもプロデュースに関わり、見事に全英4位を記録したファースト・アルバム。作風はモータウンなど諸要素も取り込んだコンテンポラリーなネオ・ソウルで、シングル・ヒット“Dive”も生まれている。

 

EZRA COLLECTIVE 『Dance, No One’s Watching』 Partisan/BIG NOTHING(2024)

敏腕プレイヤーが揃ったロンドンのジャズ・コレクティヴによるセカンド・アルバム。ヤズミン・レイシーやムーンチャイルド・サネリーといった客演陣が鮮やかな個性を放つなか、オリヴィアも“No One’s Watching Me”で華のある歌唱を聴かせる。

 

YAZMIN LACEY 『Teal Dreams』 AMF/Virgin(2025)

レイやジョルジャ・スミス、クレオ・ソルらUK発R&B勢の活躍が目立つ昨今、ノッティンガム出身のシンガーが初期オリヴィアも在籍したAMFで放ったのが本作。マイルス・クリントン・ジェイムズと共にマックス・ウルフギャングも参加している。

 

AMY WINEHOUSE 『Back To Black』 Island(2006)

直接的な影響を公言しているアデルをはじめ、ブリット・スクールの先輩はフロエトリーからロイル・カーナーまで数多い。そのなかでは英国産らしいモータウン作法のモダンな導入という意味でも、エイミーの及ぼした影響はやはり大きいはず。

 

VAROUS ARTISTS 『This Town』 Polydor(2024)

80年代初頭のバーミンガムとコベントリーを舞台にしたBBC One製作ドラマのサントラ。作中の俳優によるスカ・バンドの楽曲と並び、オリヴィアはジミー・クリフ“Harder They Come”のソウルフルなカヴァーでルーツの一端を垣間見せた。

 

MS. DYNAMITE 『A Little Deeper』 Polydor(2002)

UKガラージのシーンから英国版ローリン・ヒル的な佇まいで脚光を浴びたラッパー/シンガーの、マーキュリーに輝いた初作。初期のオリヴィアがここに収録の“Dy-Na-Mi-Tee”をカヴァーしていたように折衷的な個性は通じるものがある。

 

VARIOUS ARTISTS 『Bridget Jones’s Diary: The Mixtape』 Universal/ユニバーサル(2025)

映画「ブリジット・ジョーンズの日記」シリーズの人気曲を集めたベスト盤で、最終作でオリヴィアが歌った“It Isn’t Perfect But It Might Be”も聴ける。ここには未収録ながらシリーズ第2弾のサントラにはエイミー・ワインハウスも参加していた。

 

MAVERICK SABRE 『Burn The Right Things Down』 FAMM(2024)

オリヴィアの“A Couple Minutes”をコライトし、バック・コーラスにも名を連ねているアイルランドきってのコンテンポラリーR&Bシンガー。こちらの通算5作目では『The Art Of Loving』と同じくザック・ナホームが総監督を務めている。